今日こそは!今日こそはアレを買って帰るんだ!!
まだ売切れてませんように…。
わたしは強く決意して再びアソバの地を踏む。
今日探索するのは神楽川閉鎖区。
あの不破さんと初顔合わせした任務の時に入ったアビスだ。
入ってみてブラッドサンプルの反応が無ければ今日は上がり。
ゲーム買って帰ろう。
だが…運命とは無情なもので。
「水中にブラッドサンプルの反応がありますね」
ここにもあるのか…。わたしは溜息を吐くと貯水池に身を沈める。
水中に入ったところで海斗から連絡が入る。
「最近新型の水生異形が増えています。情報によるとこの神楽川閉鎖区でそれら新種が多く見られるとのことです。可能ならその発生原因を突き止めて下さい」
だそうだ。
もう、また面倒な事を。
それにしてもまた水中、かぁ。
水中はスペルコードが使えないから面倒なのよね。
使えないだけならまだしも、探索中に常駐させられるような効果の長いスペルコードも打ち消されちゃうから堪らない。
そしてここは場所柄、ほぼ全面が水中と言うことになる。
厳しい探索にならなければいいんだけど…。
まぁまずは歩き回ってみるか。
水中、と言うか川の底と言うことなので、所々水流がある。
場合によってはかなり流れが強くて押し流されてしまったりすることも度々。
そう言った流れの強い場所はある意味一方通行みたいな感じになってしまい、探索漏れがあったりすると戻るのに手間がかかる。
そして…川の底に沈んでいるブラッドサンプルを発見。
派手な戦闘も無く無事平穏に事が済んだわね。
よし…今日はこれでお仕舞ね。新種の異形発生原因はまた後日でも大丈夫…と思ったんだけど。
「まだブラッドサンプルの反応が残っていますね」
「……!」
わたしの流した血の涙は川の流れに溶けて消える。
一体どこにあるのよ…と思いながら探索を続けると…どう言うわけかこの川の底に研究施設跡地みたいなものがあった。
…最早嫌な予感しかしない。
恐らくその新種の水生異形が発生していると言うのはここだろう。
そしてブラッドサンプルと言うか、その手の重要な物と言うのは大抵こう言うややこしい所にあるのが相場だ。
わたし達は研究施設に踏み込んだ。
すると…沢山のイルカがお出迎え。
こうやって言葉にすると可愛くてメルヘンな感じに聞こえるかもしれないけど…このイルカが曲者で、異形として襲い掛かってくる。
しかも場所が場所だけに地の利は向こうにある。
そしてたまにイルカに混ざってシャチの異形も居たり。
…数もさることながら、水中でこの手の連中と戦うのは正直しんどい。
正に水を得た魚ってやつね…イルカもシャチも哺乳類だけど。
この研究所では恐らくこうやって動物を異形化する研究をしていたんだろうな。
まったくロクな事を無い連中もいたものね。
そして研究所の一番奥、厳重に防護されたエリアまで突貫する。
ここが異形発生の原因のはず…ここを掃討すれば今日は上がり!
そう意気込んで何かのスイッチを押す。
すると!
今まで見てきたイルカやシャチを遥かに凌駕する巨体がその姿を現した!
まさかクジラ!?
いや良く見ると何だか違う。
大型のシャチみたいね。
どちらにしてもかなりの強敵には違いない。
これだけの巨体となれば筋力も相応だろうし、生命力だってそれなりになるだろう。
最近はわたし達もブラッドコードに馴染んできて色々なスキルを引き出せるようになってきた。
そのお蔭で戦術も少し変化している。
以前は穂波が前線に立って防御、わたしが攻撃、春花がサポートだったけど、春花が防御障壁のスキルを引き出してからは穂波とわたしが攻撃役になっている。
なので殲滅力がかなり上がっている。
もちろん春花がスペルコードを使ったり防御に回れないときは今までの様な布陣に切り替えて戦う。
今回は春花の障壁で守ってもらいながら穂波、わたし、そして今しがた服従させた取り巻きのシャチで連携して大物に挑みかかる。
穂波が大物の正面に立って大立ち回り。
操ったシャチはその間に後ろに回り込んで尾ひれに噛みつく。
わたしは側面から矢を射かける。
春花の障壁は思いの外頑丈で、こちらも思い切った攻撃に出られる。
…しかしスペルコードは使えないのにあの防御障壁は大丈夫って言うのはどういう仕組みなのかしらね?
まぁ深く考えないようにしよう。
何であれ便利な事には変わりないし。
お蔭であれだけの巨体を誇った大シャチも今は無残に川の流れに浮かんでいる。
そして案の定大シャチからもブラッドサンプルが採取できた。
よし!今日はこれでお仕舞!
わたしはアビスを出るとお店に直行!
ほくほく顔で帰宅することが出来た。