刑務所の牢も随分と解放して隠し通路やら何やらを潜り抜ける。
アビスに常識を求めてはいけないが、ここまで複雑怪奇な構造にしなくても良いんじゃないかしら?
しかもたまに老朽化が進んでいるのか、歩いていると床が抜けることもあって自分達がどこにいるのか一々確認しないと迷ってしまいそう。
でもそんな探索もそろそろ大詰めみたいね。
今いる階の部屋には面会室やら看守詰所みたいな場所が見受けられる。
つまりは管理者用の階ってことになる。
そして今のところブラッドサンプルは見付かっていない。
わたし達は所長室と銘打たれた部屋に入る。
すると…グロテスクな…何と言ったらいいだろうか、頭をまるでミカンみたいに皮をむかれた人と言うべきだろうか、がこちらに気付き話しかけてくる。
「何だ貴様ら!脱獄か!?」
そう言うなりミカン頭は手元のレバーを引く。
すると…わたし達のいる辺りの床が抜ける。
突然の事に飛び退くことも出来ず階下に落とされるわたし達。
しかもあろうことか一気に最下層まで落とされたらしく、わたし達は水の中に叩き落とされた。
まぁその水のお蔭であまり怪我とかしないで済んだけど…またここから這い上がらないといけないのか。
しかも今まで探索した場所とはまた違うエリアみたいね。
またあちこち仕掛けを動かさないといけないのかしら?そうだとしたらげんなりするわね。
でも上に行かないことにはどうにもならない。特にここは何か特殊なエリアらしく、リターンゲートの様な脱出用アイテムコードも効果を打ち消されてしまう。
つまり完全に閉じ込められた状態だ。
それに…わたしはちらりと端末を見る。
結構もう夜も遅くなってきてる。
早くしないとお店閉まっちゃう。
先に買い物しておくべきだったか…?いや探索の最中にゲームディスクが割れたりしたら一大事だ。
やはり探索が終わってからじゃないと。
本来なら時間が遅くなるようなら途中で切り上げても良いんだけど、こうなってしまうとそうもいかない。
「急ぐわよ…」
わたしは二人を急かしてまた上を目指す。
…がこのエリアにはさほど仕掛けは無いらしく、すんなりと最上階まで戻ってこれた。
戻ってこれはしたんだけど…最後の部屋に問題があった。
入ったと同時に鍵がかけられてしまう。
そしてさっきのミカン星人の声。
「あ゛ー…そこで君達の処刑を行う。自分で首を吊れ」
確かにこの部屋には首吊り用にしか見えないわっか状になった縄が天井から吊るされている。
そして…そこかしこに首を吊って亡くなった上に槍か何かで突かれたような跡が無数にある死体。
…どうする?どこか脱出できそうな所は無いかしら?
「どうした、早く首を吊らんか」
どうも監視カメラか何かがあるらしく、こちらの様子は丸見えのようだ。
つまり完全に閉じ込められて首を吊って死ぬか、餓死するまで閉じ込められるか二つに一つってところか。
でもそこらに転がってる死体…首を吊っただけじゃないのよね。
明らかに何か太い針とかそう言った物で何か所も突き刺されている。
そしてあのミカン星人は処刑と言った。
多分…首を吊っている人をメッタ刺しにするような刑なんだと思う。
…ふむ。
「二人とも良い?かなり苦しいと思うけど…多分首を吊ればあのミカン星人が出てくると思う。そこをやるしかなさそうね」
二人とも不安そうな顔をする。
まぁ本当にあいつがのこのこ出てくるのか保証も無いわけだし、仕方ないか。
でもこのまま待っていても埒もない。
わたし達は覚悟を決めるとわっかに首を入れる。
「ぐ…」
出来るだけ首に荷重がかからないようにはしているけど、どうやっても苦しいものは苦しい。
「あ゛ぁ゛…良い声だ」
陶酔したようなミカン星人の声が聞こえる。
そしてそのまま首を吊ること数分。
部屋の扉が開いた…。
この時を待っていたのよ!
わたし達は縄から脱出するとミカン星人に攻めかかる。
「む゛!まだそんな力が残っていたのか!」
わたし達からの予想外の反撃に不意を突かれたミカン星人は反撃もままならず崩れ落ちる。
そして…このミカン星人からブラッドサンプルが検出された。
わたしは戦いの余韻に浸る間もなくアビスを脱出。
そして端末の時計を見る…。
22:42
無情にもお店の閉店時間を過ぎてしまっていた。
わたしはがっくりと肩を落とすと穂波を送ってから家路についた。
あぁ…アレだけは何としても今日手に入れたかったのになぁ。