日を改めて別のアビスに突入!
今日はアソバにある不忍プリズンなる刑務所のアビスだ。
何でこんなところに、と思うかもしれないけど、今日はわたしが注目していたゲームの発売日。
探索を終えたら買い物して帰ろうと言う魂胆があっただけのこと!

何せシロディールに居た頃は全然ゲームとかできなかったからなぁ。
そもそも電気が無いから家電もへったくれも無い。
その代わりなのか、魔法文化だけは充実してるので呪術師のわたしとしては居心地は良い…んだけど、ゲーム大好きなわたしとしては人生の楽しみも無いわけで…。日々悶々としていたのは否定できない。
アカヴィリも魔法文化が栄えてくれれば言う事無いんだけどね。
まぁそんなわけでわたしは家に帰るとかなりの時間をゲームに費やしている。

それはさておき、不忍プリズンなんだけど…刑務所だけあって入ったは良いけどそこかしこの扉と言う扉に鍵がかかっている。
なのでひたすら地下に向かう階段を下り続けるしかないんだけど…。
地下三階辺りから完全に水没してしまっている。
これじゃ入れないわね…。ブラッドサンプル反応を見てもらったところ、ここに一つあるみたいなんだけど、どうやって探索したものか。

思案に暮れていると、オペレータの規子から連絡が入る。
「水中エリアについてなんですけど…」
何でも説明を聞くところによると、コードライズ状態なら水中でも呼吸が出来るフィールドが展開されるらしい。
ただそのフィールドはスペルコードとの相性が悪く、水中では魔法が使えない仕様になってるとのこと。

へぇ…そうなんだ。
と思い階下に広がる水を見る。
…緑に濁ってる。
やだなぁ…何か汚い…。
でもブラッドサンプルを集めないといけないし…わたしは溜息を吐くと水没した階段を降りる。
すると…例のフィールドが発生したらしく、水が押しのけられているようだった。
水中でも呼吸できる、とか言うから自動で水中呼吸の魔法が発動するようなイメージだったけど、どうやら空気の層で身体を被うタイプのものみたいね。
これなら濡れずに水中を探索できるか。
汚い水を吸い込んで呼吸したり、汚水まみれになる心配もなさそうなので、ほっとする。

ただそれでも割と潔癖症気味な春花は二の足を踏んでいるようだった。
「大丈夫だって。ほら全然濡れないみたいよ?」
「ですが…もし異形と出会って戦闘になったりしたらどうなるんですの?」
「え?…いくら何でも殴られただけで壊れるようなフィールドで実用化しました、なんて言わないと思うけど?」
戦闘の衝撃でフィールドが破綻したときの事が心配なのかと思ったんだけど、春花の想像はもっと繊細な物だった。
「いえ、そこは多分大丈夫だと私も思いますけど…この水に塗れた手で叩かれたら…と思うと」

…その発想は無かった。
確かにわたし達に攻撃してくるってことは空気の層を突き抜けて体に接触してくることになるわよね。
春花はその際にこの汚水を擦り付けられることを恐れているのか。
さて、どうやって丸め込んだものか。
穂波なら何かそれっぽい事を適当に言っておけば何とかなることが多いけど、春花は流石にそう易々と騙されてはくれない。
うーん…どうしたものかしら?

少し思案してわたしは面白がって緑に濁った水でもお構いなしに泳ぎ回っている穂波を呼ぶ。
「なぁに?」
わたしはおもむろに穂波の身体に手を近付ける。
今の状態としては
 私の手:空気の層:汚水:空気の層:穂波の身体
と言う順番に並んでいる。
この汚水を出来るだけ逃がさないように手で包み込むように穂波の身体に押し付ける。
これで穂波の身体に汚水が付くかどうか…つまりは実験だ。

ちなみにこの実験について被験者である穂波には目的を一切伝えていない。
多分教えたら嫌がるだろうから。
「?」
そんなわたしが何をしたいのかイマイチ分かっていないようで、穂波はわたしの挙動をただ見ている。
慎重に、少しずつ、水を逃がさないように…わたしは穂波の身体に触れた。
…その実験の結果は。

結論:このフィールド内では水分は瞬時に消失する
どうもわたしのフィールドと穂波のフィールドが接触して汚水がわたし達のフィールドに包み込まれた時点で、汚水が消滅しているように見えた。
蒸発しているのか、それとも水が電気分解しているのかまでは分からないけど、水が瞬時に消失するのは間違いないようだった。

この実験を春花の前でもやって見せる。
「本当に、大丈夫なんですのね?」
漸く観念した春花がおずおずと緑に濁った水に足を踏み入れる…が、はたと歩みが止まる。
「ところで光里さん、もし水が蒸発したとして…その蒸気はどうなるんでしょう?」
「え?」
「いえ、水が蒸発したら水蒸気になるじゃないですか。その水蒸気はどこに行くのかと…」
つまり汚水の蒸気を吸い込むのが嫌、ってことか。
あぁぁ!もう!

「きっと電気分解してるから大丈夫だってば!水素と酸素に分離するの!水蒸気じゃないから大丈夫!」
「でもその水素と酸素って…汚れてないんですの?」
「電気分解してるってことは汚れも一緒に何か別の何かに分解してるから!」
「でもそれが汚れの元なんですよね?やっぱり吸い込んだら汚いんじゃありません?」
「………!…!」
「…?…」
「…!…!」
「……?」
「だから大丈夫なの、分かった!?」
「…何だか釈然としませんけど、取り敢えずは分かりましたわ…」

結論:春花の説得には大変な労力が必要である
いくら文系タイプとは言え、元々頭は結構良い方だから丸め込むのが大変だ。
もう探索する前から疲れちゃったわね。