銀座での騒ぎも無事収束し、わたし達は司令部に報告する。
「お疲れ様でした」
何時もの様に穏やかにわたし達を労う海斗。
ただ何か心配事があるのか、その表情は浮かない。
何でもこの前の星条ビルであの「天羽ヴェルン」の目撃情報があったと言う。
以前駅で話しかけた時も何か知っている様な素振りの有った天羽ヴェルン。
確かに警戒するべきかもしれないわね。
それとやはり星条ビルで交戦した黒騎士。どうもこちらは普通の異形…異形に普通とかおかしな話だけど、まぁそれは置いといて。
黒騎士は当初異形の一種と見られていたんだけど、どうも異形では無く、わたし達の様な「コードライザーに近い存在」なんじゃないかと空斗隊長は見立ててるらしい。
それでコードライザーに関連する団体や組織を調査しているそうだ。
その結果次第で今後の捜査方針が決まってくるんだろうな。
それから数日後、司令部から任務が下される。
どうも天羽ヴェルンの目撃情報の裏が取れたらしく、本人から事情聴取することになったようだ。
だが肝心の天羽は最近学校に登校していない。
つまり街に繰り出して探さないといけないらしいんだけど…住所とか分からないのかしら?
普通ならまずは住んでる所に訪ねるのが手順ってものだろうけど。
まぁとにかく、そんなわけでわたし達はこの界隈を足を棒にして歩き回る羽目になった。
けど、やはり早々見つかるはずも無く…結構日の高い内から探していたにも関わらず、天羽を見付けたのはもう夕暮れ時だった。
…と言うか見付かったのすら奇跡的な気がするわね。
ともあれ苦労して見付けたんだ。何か有効な話が聞ければいいんだけど…。
だがやはり天羽は以前会った時の様に俯いてぶつぶつと何事か呟くばかり。
「もう良いじゃないですか」
「こんな奴等の為に皆死んだなんて…」
「ここで僕が逮捕されると言うならそれも”彼”が望んだことなんでしょう」
こっちの話なんてまるで聞かず、言いたいことをぶつぶつとただ垂れ流す天羽。
どうにも埒があかないわね。
そう思っていると…どこからともなく空斗隊長が現れ、天羽の胸ぐらを掴み、締め上げる。
いきなり乱暴ねぇ。
「放してください…痛いじゃないですか」
「話す気になったか?」
「良いんですか?そんなことをして。僕にその気が無くても”彼”がどう判断するか」
まただ。天羽はたまに”彼”と言う人物について口にする。
わたしの勘だと…多分黒騎士のことだ。
でも一体黒騎士と天羽にどんな繋がりがあると言うのか。
まぁそれを確かめるための今回の任務なんだけど…どうしたら教えてくれるだろう?
思案していると突然携帯端末から警報が告げられる。
この警報は…異形の存在検知!
また街中に異形!?
そう思った頃には隊長は既にコードライズを終えていた。
そして天羽は姿を消している。
「ここは俺が始末する。お前らは天羽を追え!」
そう言うなり隊長は空に現れた異形に突撃する。
ならばこちらは天羽の足取りを追わないと…。でもどこに?まだそれ程の時間は経っていないけど、既に姿は見えない。
その時司令部から地下鉄のアビスに何者かが侵入したと情報が寄せられる。
その侵入者が天羽の可能性は高い。
わたし達も急ぎ地下鉄に向かう。
「コードライズ!」
「code-realize!」
「えっと…こーどらいず…」
穂波も前の事で懲りたのか、小さな声でコードライズする。
それにしてもアビスに逃げ込むなんて…異形に見付かったらどうするつもりなのかしら?
わたし達は地下鉄車両内に形成されたアビスに踏み込んだ。