わたし達は一気にエレベータで33階まで昇る。
途中の階は良いのか、って?
エレベータが止まるなら見るべきなんだろうけどね。
どう言うわけかここまで直通してしまった。
降りられないんじゃどうにもできない。

わたし達が33階に降りたところでしずなから連絡が入る。
無事西棟の屋上に降下して探索中だそうだ。
となると合流も近いわね。
この東棟33階の上はもう屋上だ。
つまりほぼこの向こう側にしずなも居るわけで。
しずなはどこか良さげな所を見繕って東棟に飛び移るって言ってるけど…大丈夫なのかしら?

まぁ良いわ。
こっちはこっちで捜索を続けましょ。
と思ったんだけど、33階はかなり破損が多く、あちこち床が抜けていてまともに歩ける場所も無いくらいの有様だった。
となれば後は屋上に行くしかない。

階段を上って重たい鉄扉を押し開ける…正にその時だった。
わたし達の持っている端末がけたたましい音を立てて警報を鳴らす。
「高脅威度異形の存在を検知」
何かヤバい!? 
つまりこの屋上に大物がいるってことか。
どうする?しずなの合流を待つ?
でもその間にも拉致された女子学生がどうなるか分からない。
…あんまり危険な事は好きじゃないんだけどなぁ。
わたしは溜息を吐くとかなり広い屋上を見渡す。

…何か居る。屋上の落下防止柵の辺りに黒ずくめの人。
わたしは意を決するとその黒ずくめに近付く。
姿が認識できるくらいまで近付くと…その黒ずくめに見覚えがあることに気付いた。
あの黒鎧だ!
わたしを散々追い掛け回し、エクスに助けられ、そのエクスに入隊する羽目になったその原因たる張本人!
そしてその黒鎧は片手で女子学生を吊し上げると…あろうことかその女子学生が見る間に老いさらばえていく。
生命力奪取!? 
これが急老症の正体!?

見た感じでは生命力奪取の呪いを早回しに掛けているように見えるけど…その術の展開速度たるや常軌を逸している。
あっと言う間に女子学生が老婆となって黒鎧の足元に打ち捨てられる。

そして黒鎧の視線がこちらに向く。
ここで会ったが百年目、ってやつかしらね?
わたし達で勝てるのか、その実力差はどれ程なのかはまったく不明。
でもこの状況では退くに退けない。
退こうにも逃がしてくれる相手でもないだろう。
覚悟の決め所ね。

わたしが弓を構えたその時だった。
横手から異形の大群が押し寄せてくる!
しまった、忘れてたわ。
わたしを襲った時もこいつは異形を従え、盾にしていた。
「くっ」
わたしは不意の乱入者に意識を向き直す。
黒鎧がおかしな事をしても視界に入るよう、立ち位置を調整しながら異形の群れを相手する。
穂波の武器が槍に変わったことでこう言った大群の相手はかなり楽になっている。
三国無双みたいに槍を大きく振り回し、雲霞のごとく攻め寄せる相手を打ち払えるのはかなり大きい。

だが打ち払っても切り払っても異形の数がなかなか減らない。
黒鎧が次々と呼び寄せているのか、異形自体が仲間を呼んでいるのか…。
「はぁ…」
何とかそれでも異形の群れを追いやり、わたし達は黒鎧と対峙する。
かなり消耗させられたわね…この状態じゃ勝負にもならない。
どうする?逃げられるか?

わたしが退路を模索し始めた時だった。
後ろからしずなが駆けつけてくれた。
単騎とは言えエクスの副隊長。その実力は確かのはず。
現に初対面の時もあの大物を相手に勝利を収めている。
「お待たせ。大丈夫?」
「まぁ、何とか、ね」
それだけ言葉を交わすと黒鎧に向き合う。
「…」
黒鎧は沈黙を守ったまま。

そして…
ひょい、と柵を飛び越えてビルを飛び降りる!
「え?」
「ちょっと!?」
逃がしちゃったか… 
まさかの展開に驚くわたし達。
隊長の時もそうだったけど、あの黒鎧って強そうなのが居るとすぐ逃げるみたいね。
と言うことは隊長やしずなには敵わないくらいの強さ、ってことなのか。

「おい!なにぼけっとしてやがる!黒騎士を追え!」
呆気に取られるわたし達に司令部で指揮を執っている空斗隊長が怒鳴りつける。
「いや、どうやって?」
あまりに無茶な要求に反論するしずな。
「考えるんじゃねぇ感じるんだ!お前の魂の赴くままに飛ぶんだよ!イースターのカボチャだって坂道に置けば転がるだろうが!」
もう意味が分からない。
取り敢えず隊長はブルースリーに何らかの影響を受けている可能性があることは分かった。
「私はカボチャじゃないので、被害者の救助を優先します。オーバー」
しずなも付き合ってられないと思ったのか、そう言いきると交信を切る。

「よく頑張ってくれたわね、HT特務小隊。期待通りの働きだったわ」
そう言うとしずなは手早く救助班の要請をする。
結局誰一人急老症から救うことは出来なかった。
あの黒鎧、どうもエクスでは「黒騎士」と呼ばれてるみたいだけど、は一体どうしたいのかしらね?
被害者は急速に老化して生命力を奪われる。でも死ぬことは無い。何が目的なのか。
わたし達は救助の完了を見届けると司令部に帰投した。