クラヴィカスの祠から離れて一路スキングラードへ。
到着が夜だったので一泊して翌朝、魔術師ギルドに顔を出す。

「この忙しい時に一体何の御用?」
余程忙しいのか支部長のエイドリアンはこちらに視線を向けることすらしない。
わたしは推薦状の件を伝えるとさらに苛立ちが募ったのか
「推薦状?あぁもう!この忙しい時に!…そうですね、ではアーソルと言うギルドの会員を呼んできて。彼を連れて来たら推薦状を出しましょう」
へ?そんなことで良いの?
…推薦状って一体何なんだろう。
「急いでお願いしますよ。まったく人のノートを借りたままどこに言ったのやら」

エイドリアンはぶつぶつと一人文句を垂れ流しながら何やら資料を纏めている。
まぁ良いや。こんな使い走りみたいなことで推薦状を出してもらえるなら万々歳。
そう思いスキングラード支部の中を見て回るけど肝心のアーソルとやらはいないみたい。
「アーソルはいないみたいなんですけど?」
「いない?じゃぁ彼と親しい人…そうね、スリナスにでも聞いてみて」
わたしの報告にやはり視線を向けることなく答える。

「アーソル?根は良い奴なんだがね。前にちょっとヘマしてエイドリアンに大目玉さ。それでどっか余所でやれと言われてどこだったかの洞窟に追っ払われたんだ。たまにこっちに顔を出すんだけど…最近見かけないな、どうしたんだろうな?」
そのスリナスに聞くとそんな返事が返ってきた。
「どこの洞窟に居るの?」
「済まん!場所は良く分からないんだ」
これじゃ探しようもない。

そんなやり取りを横で聞いていたアルゴニアンの女性会員ドゥージャが教えてくれる。
「アーソルでしょ?彼なら…ほら地図だとこの辺りにある洞窟にいるはずよ」
地図に印をつけてくれる。
「有難う、助かるわ」
「いえいえ。でも酷いわよねぇ。エイドリアンは多分自分でアーソルを追い出した事、忘れてるわよ?ちょっと教えてあげたらどうかしら?」
どれだけ自分の事で手一杯なのかしら?まったく何の研究をしてるのやら。

ドゥージャの勧めもあってエイドリアンに嫌味を言いに行く。
「洞窟?あぁ、そう言えばそうでしたね。では彼の事宜しく頼みます」
やはりこっちに一瞥をくれることもない。まったく嫌味も通じないのか。

わたしはスキングラードを出て教えてもらった洞窟に入る。
早速人影が見えたので声をかけてみたんだけど…それはアーソルじゃなくて首の無いゾンビだった。
「なっ!?」
まさかこんなのがいるとは夢にも思わなかったわたしは驚いて反応が遅れる。
痛た…なんなのよ、もう!

わたしは気を取り直して弓を構える。
しかしアンデッドって言うのは嫌な奴よねぇ。毒効かないし。

結局ゾンビは程なく動かなくなった…んだけど、これはどう言うことなのかしら?
まさか今のがアーソルの成れの果て、とかじゃないわよね?
わたしは用心して暗視の霊薬を煽ると足音を立てないように洞窟の中を探索する。
すると…また居た。首無しゾンビだ。
遠間から矢を射かければ一方的な勝負だ。向こうはわたしの居場所すら分からずにただの死体に戻っていく。

しかし結構な数がいるわね。
アーソルって実は死霊術師だ、とか?誰の目にも触れないのを良い事にやりたい放題やってるのかしら?

そんな中、首のある人が居る。
首ありのゾンビかもしれないので忍び足でそっと近寄り、風貌を確認すると、どうも生きたボズマー男性らしい。
この人かしら?

わたしは後ろから声をかけると…
「きぃぃやああぁあぁあぁぁぁぁ!」
男はとんでもない声を出して驚いた。
そしてそのあまりの絶叫にわたしも驚く。
「なんて声出すのよ!」
「あんたが脅かすからだろ!?」

一息入れて落ち着いたところで話を聞いてみると、やはり彼がアーソルその人だった。
アーソル 
何でか分からないけど、急に洞窟内にゾンビが湧き出して出るに出られなくなってしまったらしい。
「ボクはここから出ないぞ!?だって怖いからな!!!」
情けない事を力一杯宣言する。
「大丈夫よ。ここまでの道沿いに居たのは全部やっつけたから」
「…本当に?」

ゾンビが居なくなったと知ってアーソルは緊張が解けたのか、がくりと脱力する。
「ありがとう助かったよ…君が来なかったらと思うと恐ろしくて…あぁまた震えが…」
アーソルが落ち着くのを待ってわたしは用件を告げる。
「ノート?あぁ確かここに…あった。これを持って帰れば良いのかい?」
「そうしてくれると有難いわ」
「わかったよ。でも君もスキングラードに戻るんだろう?ならボクもついて行くよ。だって途中で熊とか出くわしたら怖いからな!!」
情けない所だけは力説するアーソル。

そしてアーソルを連れてスキングラードの支部に戻る。
「エイドリアン、戻ってこれたよ」
「あら、お帰りなさい。で、ノートを返してほしいのですが?」
この人は会員の心配もしないのか?
アーソルはノートを手渡す。
エイドリアンはそのノートに目を通しながらわたしの方に声をかける。
「アーソルからノートも返してもらえましたし、推薦状は出しておきましょう」
結局彼女はわたしの方を見ることはただの一度も無かった。