「人はなぜ、自分が信じたい情報だけを信じてしまうのか」
というテーマについて書きました。
人は、自分では客観的に考えているつもりでも、
自分が信じたい情報。
自分を安心させてくれる情報。
自分の考えを支持してくれる情報。
そうしたものを無意識のうちに選んでしまうことがあります。
そして、その前の記事では、
「人はなぜ、自分に都合の悪い事実から目をそらしてしまうのか」
ということについて書きました。
都合の悪い事実は見たくない。
信じたい情報は信じたい。
この二つは、まったく別のようでいて、実は深くつながっています。
どちらにも、
「感情が事実の見え方を変えてしまう」
という共通点があるからです。
私は探偵業界で23年間、人の行動や事実を確認する仕事に携わってきました。
その中で強く感じるのは、
判断を間違えにくい人は、感情がない人ではない
ということです。
誰にでも感情はあります。
不安になる。
腹が立つ。
信じたい。
疑いたくなる。
怖くなる。
期待する。
問題は、感情を持つことではありません。
大切なのは、
「今、自分が感じていること」と「実際に起きていること」を分けて考えられるか
ということです。
今回は、
「事実と感情を分けて考えられる人が、判断を間違えにくい理由」
について書いてみたいと思います。
「そう感じる」と「実際にそうである」は違う
人は、自分が強く感じたことを事実だと思ってしまうことがあります。
「なんとなく怪しい」
「絶対に嘘をついている気がする」
「自分は嫌われている気がする」
「きっとうまくいかない」
「この人なら大丈夫だと思う」
こうした感覚には、意味があることもあります。
過去の経験から、無意識に何かを感じ取っている場合もあるでしょう。
しかし、
「そう感じること」と「実際にそうであること」は同じではありません。
怪しいと感じても、実際には何もないかもしれない。
安心できると感じても、問題が隠れているかもしれない。
だからこそ、
感情は無視するのではなく、
一つの情報として扱う
ことが大切です。
「私は今、怪しいと感じている」
これは事実です。
しかし、
「だから相手は必ず何かを隠している」
ここから先は、まだ確認されていない可能性があります。
この違いを分けられるかどうかで、判断は大きく変わります。
探偵の仕事では「依頼者の気持ち」と「確認された事実」を分ける
探偵への相談では、当然ながら相談者には強い感情があります。
不安。
怒り。
悲しみ。
疑い。
恐怖。
期待。
ときには、それらがすべて混ざっていることもあります。
たとえば、
「夫は絶対に浮気をしています」
と言われることがあります。
その言葉の背景には、
帰宅時間が変わった。
スマートフォンの扱いが変わった。
夫婦の会話が減った。
説明に違和感がある。
そうした理由があるかもしれません。
相談者が「怪しい」と感じることには、何らかの理由があります。
その感情を否定する必要はありません。
しかし、調査する側は、
「怪しいと感じていること」と、
「浮気をしている事実が確認されたこと」
を分けなければなりません。
疑いは、調査を始める理由にはなります。
しかし、
疑いそのものが証拠になるわけではありません。
ここを混同してしまうと、事実を見ることができなくなります。
感情が強いと、人は「意味」を付けすぎる
感情が強くなると、普段なら気にしないことにも意味を感じるようになります。
返事が短い。
「怒っているのではないか」
連絡が遅い。
「何か隠しているのではないか」
目を合わせなかった。
「嘘をついているのではないか」
予定が変わった。
「誰かと会うのではないか」
もちろん、本当に何か意味がある場合もあります。
しかし、一つ一つの行動には、別の理由も考えられます。
疲れていた。
忙しかった。
考え事をしていた。
単純に予定が変わった。
感情が強いとき、人は、
自分が最も恐れている意味を、出来事に付けてしまう
ことがあります。
だからこそ、重要なのは、
「何が起きたのか」
と、
「自分はそれをどう解釈したのか」
を分けることです。
「事実」と「解釈」を分けるだけで、見え方は変わる
たとえば、
「相手から3時間返信がなかった」
これは事実です。
しかし、
「自分を大切にしていない」
「誰かと一緒にいる」
「わざと無視している」
これは解釈です。
もちろん、その解釈が正しい可能性もあります。
しかし、まだ確認されていないのであれば、事実とは分けて考える必要があります。
同じように、
「帰宅時間が以前より2時間遅くなった」
これは事実です。
「浮気をしている」
これは、その時点では可能性の一つです。
このように、
起きたことと、自分が付けた意味を分ける。
それだけでも、感情に流されにくくなります。
感情を抑え込む必要はない
事実と感情を分けるというと、
「感情を捨てなければならない」
と思う人がいるかもしれません。
しかし、私はそうは思いません。
感情は重要です。
不安だから、何かがおかしいと気付くことがあります。
怒りによって、自分が大切にしているものが分かることもあります。
悲しみによって、自分が何を失ったのかに気付くこともあります。
違和感が、重要な問題の入口になることもあります。
だから、
感情を消す必要はありません。
必要なのは、
感情に判断のすべてを任せないこと
です。
「私は今、怒っている」
「だから、今すぐ決断するのはやめよう」
「私は今、不安になっている」
「だから、まず事実を確認しよう」
このように、自分の感情を認識できる人は、むしろ冷静な判断に近づくことができます。
怒っているときほど「結論」を急がない
感情が最も判断を変えやすいのは、強い怒りや恐怖があるときです。
怒っているときは、
「もう終わりだ」
「絶対に許さない」
「すぐに言ってやろう」
と思うことがあります。
怖いときは、
「逃げた方がいい」
「何もしない方がいい」
「きっと最悪のことが起きる」
と思うことがあります。
しかし、強い感情は永遠には続きません。
時間が経つと、見え方が変わることがあります。
だから私は、
感情が最も大きく動いている瞬間ほど、大きな決断を急がない
ことが大切だと思っています。
もちろん、危険が迫っている場合は別です。
すぐに行動しなければならないこともあります。
しかし、そうでないなら、
一度時間を置く。
事実を書き出す。
誰かに話す。
確認できることを確認する。
それから決めても遅くないことがあります。
「事実だけを書き出す」と頭が整理される
何かに悩んでいるとき、私は一つの方法が役に立つと思っています。
紙でもスマートフォンでも構いません。
まず、
確認できている事実だけを書く。
その次に、
自分が感じていることを書く。
そして最後に、
自分が想像していることを書く。
たとえば、
【事実】
帰宅時間が以前より遅くなった。
週に2回、帰宅が深夜になった。
スマートフォンを持ち歩くようになった。
【感情】
不安。
怖い。
裏切られているかもしれないと思うと悲しい。
【想像】
浮気をしているのではないか。
誰かと会っているのではないか。
この三つを分けるだけでも、頭の中はかなり整理されます。
普段は、事実と感情と想像が一つになっています。
だから、すべてが「現実」のように感じられてしまうのです。
冷静な人とは「感情が動かない人」ではない
本当に冷静な人は、何も感じない人ではありません。
感情は動いています。
腹が立つこともある。
不安になることもある。
傷つくこともある。
しかし、
感情が動いている自分を、自分で見ることができる。
「今、自分は怒っている」
「だから、相手のすべてが悪く見えているかもしれない」
「今、自分は信じたいと思っている」
「だから、都合の悪い情報を軽く見ているかもしれない」
そう考えられる。
この少しの距離が、判断を大きく変えます。
正しい判断には「感情」と「事実」の両方が必要
私は、事実だけを見ればいいとも思いません。
人間の人生は、数字だけで決められるものではないからです。
条件としては良い。
理屈では正しい。
しかし、自分はどうしても納得できない。
そういうこともあります。
反対に、
好きだから。
信じたいから。
という感情だけで決めると、見落とすものもあります。
だからこそ、
事実を確認したうえで、自分の感情も見る。
この順番が大切なのだと思います。
何が起きているのか。
自分はどう感じているのか。
自分は何を大切にしたいのか。
そのすべてを見たうえで決める。
それが、自分で納得できる判断につながります。
探偵の仕事は「感情を否定する仕事」ではない
探偵という仕事は、事実を確認する仕事です。
しかし、相談者の感情を無視していいわけではありません。
むしろ、
なぜ不安なのか。
何が怖いのか。
何を知りたいのか。
真実を知った後、どうしたいのか。
そこまで理解しなければ、本当に必要な調査は見えてこないことがあります。
事実だけを伝えれば終わりではありません。
しかし同時に、
相談者が望む答えを作ることもできません。
感情には寄り添う。
事実は曲げない。
この二つを両立することが、探偵という仕事には必要だと私は思っています。
判断を間違えにくい人は「一度分けてから、もう一度合わせる」
事実と感情を分ける。
これは、どちらかを捨てるためではありません。
一度分けることで、
それぞれを正しく見るためです。
何が起きているのか。
自分はどう感じているのか。
何を恐れているのか。
何を望んでいるのか。
それぞれを見たあとで、
もう一度、自分の人生として考える。
事実だけでもない。
感情だけでもない。
その両方を見て決める。
これが、判断を間違えにくくする一つの方法だと思います。
最後に
人は感情のある生き物です。
だから、
完全に感情をなくして判断することはできません。
そして、その必要もありません。
大切なのは、
自分が感じていることを、
そのまま事実だと思わないことです。
「私はそう感じている」
と、
「実際にそうである」
を分ける。
「何が起きたのか」
と、
「自分がどう解釈したのか」
を分ける。
そして、
確認できる事実を見たうえで、
自分はどうしたいのかを考える。
私は探偵業界で23年間、
感情と事実が複雑に絡み合う場面を数多く見てきました。
不安が正しかったこともあります。
疑いが思い込みだったこともあります。
信じていたことが事実だったこともあります。
信じたかったことと現実が違ったこともあります。
だからこそ、
最初から感情を否定することも、
最初から感情を事実だと決めることも、
どちらも危険だと思っています。
感情は、自分の心を知るための大切な情報です。
事実は、現実を知るための大切な情報です。
その二つを分けて見ることができれば、
人は少しだけ冷静に、
そして、自分自身にとって納得できる判断ができるようになる。
私は、そう思います。
次回は、
「人の本性は、どんな瞬間に現れるのか」
について書いてみたいと思います。
Infinity顧問
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