前回の記事では、

「人はなぜ、自分に都合の悪い事実から目をそらしてしまうのか」

というテーマについて書きました。

人は、自分にとって受け入れにくい事実を、すぐには認められないことがあります。

信じてきたものを失いたくない。

自分の判断が間違っていたと思いたくない。

今の生活を変えたくない。

傷つきたくない。

だから、目の前にある事実から目をそらしてしまうことがある。

しかし、人間の心理には、さらにもう一つ注意しなければならないことがあります。

それは、

自分が信じたいことを支持する情報ばかりを集めてしまう

ということです。

「やはり自分は正しかった」

「やっぱり、あの人は怪しい」

「やっぱり、この考え方で間違っていない」

そう思える情報は受け入れやすい。

反対に、

自分の考えと違う情報。

自分にとって不都合な情報。

自分の判断を否定するような情報。

そうしたものは、無意識のうちに軽く扱ってしまうことがあります。

私は探偵業界で23年間、人の行動や事実を確認する仕事に携わってきました。

その中で強く感じるのは、

人は事実を見て判断しているつもりでも、実際には「自分の結論に合う事実」を探していることがある

ということです。

今回は、

「人はなぜ、自分が信じたい情報だけを信じてしまうのか」

について書いてみたいと思います。


人は「正しい答え」より「安心できる答え」を求めることがある

私たちは、自分では客観的に考えているつもりです。

情報を集めている。

比較している。

よく考えている。

だから、自分の判断は冷静だと思っています。

しかし、本当にそうでしょうか。

人は、ときに、

正しい答えを探しているのではなく、自分が安心できる答えを探している

ことがあります。

たとえば、

「この人を信用しても大丈夫だろうか」

と考えているとします。

本当に客観的に判断するのであれば、

信用できる材料と、

信用できない材料の両方を見る必要があります。

しかし、すでにその人を信じたいと思っている場合、

信用できる情報ばかりが目に入ります。

「優しい人だから」

「自分には嘘をつかないから」

「長い付き合いだから」

「周りからの評判も悪くないから」

一方で、

説明が不自然だった。

約束を何度も破っている。

言っていることと行動が違う。

そうした情報については、

「たまたまだろう」

「何か事情があるのだろう」

と小さく扱ってしまう。

反対に、最初から相手を疑っている場合は、何をしても怪しく見えることがあります。

つまり、

同じ事実でも、最初に何を信じているかによって見え方が変わる

のです。


一度出した結論を、人は簡単には変えたくない

人は、一度、

「こうだ」

と思うと、その考えを維持しようとします。

なぜなら、自分の考えが間違っていたと認めることには、負担があるからです。

「自分は人を見る目がなかったのかもしれない」

「判断を間違えたのかもしれない」

「思い込みだったのかもしれない」

そう考えるのは、気持ちの良いことではありません。

だから、自分の考えを守る情報を探します。

そして、その情報を見つけると、

「ほら、やっぱり」

と思う。

問題は、

「やっぱり」と思った瞬間に、それ以上考えなくなってしまうこと

です。

自分の考えに合う情報が一つ見つかっただけで、結論が正しいとは限りません。

それでも人は、自分が納得できる材料を見つけると、そこで安心してしまうことがあります。


探偵の仕事で最も危険なのは「最初から答えを決めること」

探偵の仕事でも、これは非常に重要です。

たとえば、相談者から、

「夫は絶対にこの女性と浮気しています」

と言われたとします。

もちろん、その可能性はあります。

相談者には、そう考えるだけの理由があるのかもしれません。

しかし、調査する側まで、

「この女性が浮気相手だ」

と最初から決めつけてはいけません。

なぜなら、その瞬間から、

その結論に合う行動だけが重要に見えてしまう危険があるからです。

対象者が女性と話した。

「やはり浮気相手だ」

同じ場所にいた。

「やはり関係がある」

連絡を取っていた。

「やはり間違いない」

しかし、それぞれには別の理由があるかもしれません。

大切なのは、

「浮気している証拠を探す」

ことではありません。

実際に何が起きているのかを確認すること

です。

調査の結果、

疑いどおりの事実が確認されることもあります。

反対に、相談者が想像していた相手とは別の人物だったり、そもそも疑っていた事実が確認されなかったりすることもあります。

探偵の仕事は、

依頼者の予想を証明する仕事ではありません。

事実を確認する仕事です。


「証拠を探す」と「事実を確認する」は似ているようで違う

この二つは、一見すると同じように見えます。

しかし、私は大きく違うと思っています。

「証拠を探す」

という言葉の中には、ときに、

「自分の結論を証明するものを探す」

という意味が入り込むことがあります。

一方で、

「事実を確認する」

という姿勢では、

自分の予想と違う結果も受け入れなければなりません。

自分が正しいことを証明するのではなく、

何が本当なのかを見る。

この違いは非常に大きいです。

人生でも同じです。

自分が正しいことを証明するために情報を集めるのか。

それとも、

自分が間違っている可能性も含めて情報を見るのか。

後者の方が、はるかに難しい。

しかし、正しい判断に近づくためには必要なことです。


インターネットは「信じたい情報」を簡単に見つけられる

今は、少し検索すれば多くの情報が出てきます。

これは非常に便利です。

しかし、同時に注意も必要です。

なぜなら、

自分が欲しい答えを探せば、その答えに近い情報を見つけることができるからです。

「この方法は正しい」

と検索すれば、それを支持する情報が見つかる。

「この方法は間違っている」

と検索すれば、反対の情報も見つかる。

つまり、

検索したから客観的になれるとは限りません。

最初から欲しい答えが決まっていれば、

その答えを支持する情報ばかり集めることもできます。

情報が多い時代だからこそ、

「何を読んだか」

だけではなく、

「なぜ、その情報を選んだのか」

を見る必要があります。


同じ意見の人だけに相談すると、考えはさらに強くなる

人は、自分と同じ考えの人と話すと安心します。

「あなたは間違っていない」

「私もそう思う」

「絶対に相手が悪い」

そう言われると、自分の判断に自信を持つことができます。

もちろん、共感してもらうことは大切です。

つらいときに、自分の気持ちを理解してくれる人の存在は大きいものです。

しかし、

判断をするときには、

共感してくれる人と、冷静に事実を見る人は、必ずしも同じではありません。

自分と同じ意見の人にだけ相談していると、

自分の考えがどんどん強くなることがあります。

それが正しければ問題ありません。

しかし、最初の前提が間違っていた場合、

間違った方向へ自信を持って進んでしまうこともあります。


「自分が間違っているとしたら?」と考えられるか

私は、重要な判断をするとき、

一つの問いが役に立つと思っています。

それは、

「もし、自分の考えが間違っているとしたら、何を見落としているだろうか」

という問いです。

これは、自分を否定するための質問ではありません。

判断の精度を上げるための質問です。

自分はこの人を信用している。

もし、その判断が間違っているとしたら、何を見落としているのか。

自分はこの人を疑っている。

もし、その疑いが間違っているとしたら、別の説明はあるのか。

自分はこの方法が正しいと思っている。

もし、間違っているとしたら、どんな問題が起きるのか。

一度、反対側から見る。

それだけで、見えていなかったものが見えることがあります。


自分と反対の情報ほど、一度立ち止まって見る

自分の考えに合う情報は、自然に受け入れられます。

だからこそ、本当に注意して見るべきなのは、

自分の考えと合わない情報

かもしれません。

もちろん、反対意見が必ず正しいわけではありません。

間違った情報もあります。

しかし、

「自分の考えと違うから」

という理由だけで無視するのは危険です。

なぜ、この情報は自分の考えと違うのか。

根拠は何か。

自分が知らない事実はないか。

自分の前提に間違いはないか。

そこまで考えることで、判断はより強くなります。


「信じること」と「事実を見ること」は両立できる

誰かを信じることは大切です。

自分の考えを持つことも大切です。

何でも疑えばいいわけではありません。

しかし、

信じることと、

事実を見ないことは違います。

本当に相手を信じたいのであれば、

都合の良い部分だけを見るのではなく、

都合の悪い部分も含めて見る必要があります。

自分の考えを本当に大切にしたいのであれば、

反対の情報にも耐えられるか確認する必要があります。

事実を見たうえで、それでも信じる。

それは、何も見ずに信じることより強い信頼だと思います。


判断力とは「自分の考えを疑う力」でもある

判断力がある人というと、

自分の考えに自信がある人を想像するかもしれません。

しかし私は、

本当に判断力がある人は、

必要なときに自分の考えを疑える人

だと思っています。

「自分はこう思う」

それは大切です。

しかし同時に、

「本当にそうだろうか」

と考える。

新しい事実が出たら見直す。

反対の情報も確認する。

自分の感情と事実を分ける。

そうすることで、判断はより正確になります。

自信とは、

「自分は絶対に間違えない」

と思うことではありません。

間違っていたら修正できる

と思えることなのかもしれません。


最後に

人は、自分が信じたい情報を信じます。

それは、ある意味では自然なことです。

誰でも、自分の考えが正しいと思いたい。

自分の選択を否定されたくない。

信じている人を疑いたくない。

安心できる答えを選びたい。

しかし、

自分が信じたい情報だけを集めていると、

現実と自分の認識が少しずつ離れていくことがあります。

私は探偵業界で23年間、

予想と事実が違う場面を何度も見てきました。

相談者の予想が正しかったこともあります。

違っていたこともあります。

私自身の最初の読みが外れることもあります。

だからこそ、

最初の予想より、最後に確認された事実を大切にする。

これは、探偵という仕事を続ける中で、強く意識するようになったことです。

自分が何を信じたいか。

それは大切な気持ちです。

しかし、

何が実際に起きているのか。

それは別の問題です。

自分の考えに合う情報だけを見るのではなく、

合わない情報にも目を向ける。

「もし、自分が間違っているとしたら」

と、一度考えてみる。

その習慣が、

思い込みから自分を守り、

より良い判断につながっていくのだと思います。

次回は、

「事実と感情を分けて考えられる人が、判断を間違えにくい理由」

について書いてみたいと思います。

Infinity顧問

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人はなぜ自分が信じたい情報だけを信じてしまうのか|探偵歴23年で学んだ思い込みの危険性