前回の記事では、
「決断した後に迷い続ける人と、前へ進める人の違い」
というテーマについて書きました。
人は、何かを決断した後でも、
「本当にこれで良かったのだろうか」
「あちらを選んでいたら、どうなっていただろう」
と考えることがあります。
しかし、新しい事実が何も増えていないのに、同じことを何度考えても、答えが変わらないことがあります。
それでも人は考え続けます。
過去の出来事。
誰かに言われた言葉。
自分が選ばなかった道。
相手の本当の気持ち。
「あのとき、こうしていれば」という後悔。
考えても答えが出ないと分かっている。
それでも、頭の中で何度も同じ場面を繰り返してしまう。
なぜなのでしょうか。
私は探偵業界で23年間、多くの相談者と向き合い、人が「分からないこと」に苦しむ姿を見てきました。
そして感じるのは、
人は答えが欲しいから考え続けるだけではない
ということです。
ときには、
答えが出ない状態そのものに耐えられないから、考え続けてしまう
ことがあります。
今回は、
「人はなぜ、答えが出ないことを何度も考え続けてしまうのか」
について書いてみたいと思います。
人は「分からない状態」が苦手である
人間は、分からないことに不安を感じます。
何が起きているのか分からない。
相手が何を考えているのか分からない。
この先どうなるのか分からない。
自分の判断が正しかったのか分からない。
この「分からない」という状態は、想像以上に人を疲れさせます。
答えが悪いものであっても、
「分かった」
ことで気持ちが整理されることがあります。
しかし、答えがない状態では、頭の中に空白が残ります。
そして人は、その空白を埋めようとします。
「もしかしたら、こうだったのではないか」
「いや、別の可能性もある」
「でも、あのときの言葉を考えると……」
そうして、考え続けます。
しかし、事実が増えていないのであれば、考える材料も増えていません。
そのため、同じ場所を何度も回ることになります。
考えているようで、実は同じ場所を回っていることがある
深く考えることと、同じことを繰り返し考えることは違います。
深く考えるとは、
新しい情報を加える。
別の視点から見る。
事実と感情を分ける。
原因と結果を整理する。
そして、何らかの判断や行動につなげることです。
一方で、答えが出ないことを何度も考え続けているときは、
同じ記憶。
同じ不安。
同じ疑問。
同じ想像。
を繰り返していることがあります。
これは、考えが深くなっているのではありません。
思考が同じ場所を回っている状態です。
考える時間が長いからといって、必ず答えに近づいているとは限りません。
探偵への相談でも「答えのない推測」に苦しんでいる人は多い
探偵への相談では、
「夫は本当に浮気をしているのでしょうか」
「妻は誰と連絡を取っているのでしょうか」
「帰宅が遅い本当の理由は何でしょうか」
「この行動には、どんな意味があるのでしょうか」
といった質問を受けることがあります。
もちろん、状況から可能性を考えることはできます。
しかし、調査をしていない段階では、事実として分からないこともあります。
ここで注意しなければならないのは、
分からないことを、想像だけで事実にしてしまわないこと
です。
帰宅が遅い。
スマートフォンを見る時間が増えた。
休日の予定が変わった。
態度が以前と違う。
確かに、気になる変化かもしれません。
しかし、
「だから浮気をしている」
と断定することはできません。
反対に、
「きっと何もない」
と断定することもできません。
分からないことは、分からない。
探偵の仕事では、この線引きが非常に重要です。
疑いと事実は別です。
そして、推測と証拠も別です。
人は「最悪の答え」を想像しやすい
答えが分からないとき、人は必ずしも良い可能性を考えるわけではありません。
むしろ、不安が強いときほど、悪い可能性を考えやすくなります。
連絡がない。
「何かあったのではないか」
返事が遅い。
「嫌われたのではないか」
態度が違う。
「何か隠しているのではないか」
一つの小さな変化から、頭の中で物語を作ってしまうことがあります。
そして、その物語を何度も考えているうちに、
想像したことが、実際に起きていることのように感じられてしまう。
これは、とても危険な状態です。
事実は一つしかないのに、想像には限界がありません。
考えれば考えるほど、可能性は増えていきます。
その結果、不安も増えていきます。
「考え続ければ答えが出る」という思い込み
私たちは子どもの頃から、
「よく考えなさい」
と言われて育ちます。
確かに、考えることは大切です。
しかし、世の中には、
考えるだけでは答えが出ない問題
があります。
相手の本当の気持ち。
まだ起きていない未来。
過去に別の選択をしていた場合の人生。
本人にしか分からないこと。
確認しなければ分からない事実。
こうしたものは、頭の中だけでどれだけ考えても、確実な答えにはたどり着けません。
それでも、
「もっと考えれば分かるかもしれない」
と思ってしまう。
しかし、必要なのは、さらに考えることではなく、
情報を得ること
かもしれません。
あるいは、
答えが出ないものとして、一度手放すこと
かもしれません。
答えが出ない問題には、三つの種類がある
私は、答えが出ない問題を考えるとき、
大きく三つに分けて考えると整理しやすいと思っています。
一つ目は、
「情報が足りないから答えが出ない問題」
です。
これは、必要な情報を集めれば答えに近づく可能性があります。
二つ目は、
「今はまだ答えが出ない問題」
です。
時間が経たなければ分からないこともあります。
三つ目は、
「永遠に答えが分からない問題」
です。
過去に別の選択をしていたらどうなっていたか。
亡くなった人が本当は何を考えていたのか。
あのとき相手が心の中で何を思っていたのか。
確認する方法がないものもあります。
この三つを混ぜてしまうと、人は苦しくなります。
情報を集めれば分かることなら、調べればいい。
時間が必要なら、待つしかない。
永遠に分からないことなら、どこかで「分からないまま生きる」という選択が必要になります。
「分からない」を受け入れることも判断力である
探偵という仕事をしていると、
「探偵なら何でも分かる」
と思われることがあります。
しかし、実際にはそうではありません。
確認できること。
確認できないこと。
証拠があること。
証拠がないこと。
推測できること。
断定できないこと。
これらを分けることが重要です。
私はむしろ、
分からないことを「分からない」と言えることも、専門家として必要な姿勢
だと思っています。
無理に答えを作らない。
事実がないのに断定しない。
分からないものを、分かったふりをしない。
これは人生でも同じです。
すべてのことに答えを出そうとすると、かえって判断を誤ることがあります。
考えることをやめるのではなく「考える目的」を決める
では、答えが出ないことは考えない方がいいのでしょうか。
私は、そうは思いません。
考えることには意味があります。
ただし、
何のために考えているのか
を意識することが大切です。
「この問題を解決するために考えているのか」
「次の行動を決めるために考えているのか」
「ただ不安だから考え続けているのか」
この違いは大きいです。
考えた結果、
「明日、確認してみよう」
「専門家に相談しよう」
「もう少し情報を集めよう」
「今は答えが出ないから、一度待とう」
という行動につながるなら、考える意味があります。
しかし、何時間考えても、
昨日と同じ疑問に戻っているだけなら、
一度、思考を止める必要があるかもしれません。
自分では答えを出せないこともある
人は、自分の頭の中だけで問題を解決しようとすることがあります。
しかし、自分が当事者であるほど、冷静に考えることが難しくなる場合があります。
感情がある。
恐怖がある。
期待がある。
過去の経験がある。
そのため、同じ事実を見ても、自分にとって都合の良い方向、あるいは悪い方向へ解釈してしまうことがあります。
そんなときは、
誰かに話す。
専門家に相談する。
事実を書き出す。
自分の感情と現実を分ける。
それだけでも、頭の中が整理されることがあります。
相談することは、答えを他人に決めてもらうことではありません。
自分では見えなくなっているものを、別の角度から見るための方法
でもあります。
「答えを出すこと」より「次にどうするか」を考える
答えが出ないことを考え続けているとき、私は一つの質問が役に立つと思っています。
それは、
「答えが分かったら、自分は何をするのか」
という質問です。
もし答えがAだったら、どうするのか。
Bだったら、どうするのか。
そして、
答えが分からないままなら、どうするのか。
ここまで考えると、
自分が本当に求めているものが見えてくることがあります。
答えそのものが欲しいのではなく、
安心したいのかもしれない。
決断する勇気が欲しいのかもしれない。
誰かに背中を押してほしいのかもしれない。
真実を確認して、次へ進みたいのかもしれない。
問いの奥にある本当の目的を見ること。
それが大切です。
最後に
人は、答えが出ないことを何度も考え続けます。
それは、弱いからではありません。
分からないことが怖いからです。
自分の人生を大切に思っているからこそ、間違えたくない。
傷つきたくない。
後悔したくない。
だから、考え続けます。
しかし、
考え続けることと、答えに近づくことは同じではありません。
情報が必要なら、情報を集める。
確認できることなら、確認する。
時間が必要なら、待つ。
そして、どうしても答えが出ないことなら、
「分からない」という状態を受け入れる。
人生には、すべての答えが分かってから前へ進めるわけではないことがあります。
分からないことを抱えたままでも、次の一歩を選ばなければならないことがあります。
私は探偵業界で23年間、人が「真実を知りたい」と願う場面を数多く見てきました。
真実を知ることで前へ進める人もいます。
一方で、すべての疑問に答えが出るわけではありません。
だからこそ大切なのは、
分かることと、分からないことを分けること。
そして、
自分が今できることを見つけること。
答えのない問いを何度も繰り返すより、
「今の自分にできる次の一歩は何か」
を考える。
その一歩が、止まっていた時間を動かすことがあります。
次回は、
「人はなぜ、自分に都合の悪い事実から目をそらしてしまうのか」
について書いてみたいと思います。
Infinity顧問
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