オアシス展のコラムを書いてるんですが、9/21がリアム・ギャラガーの誕生日ということで、リアムが作った曲でオアシスのアルバムに収録されたものをまとめようと書いていたら、調べるほどに発見があり、かなり長くなってしまいまして。長すぎってことで実際のコラムはかなり絞って、削ったものをこちらに掲載したんですが
https://oasis-liveforever.jp/column/53
ただ、せっかく書いたのでもったいないかなあと思って、オアシス展のコラムの「ロングヴァージョン」ということでこちらに残しておきます。
リアム・ギャラガーの誕生日~オアシスでリアム・ギャラガーが作った曲(オアシス展コラムのロング・ヴァージョン)
9月21日はリアムの誕生日。ということで、「リアム特集」です。リアムの破天荒な言動や行動、ゴシップネタや逸話はさんざんいろいろなところでも語られていると思いますので、今回はリアムの作品にフォーカスしてみたいと思います。
リアム・ギャラガー、本名ウィリアム・ジョン・ポール・ギャラガーは英マンチェスターで1972年9月21日に生誕。もう52歳になっちゃったんですね!
オアシスの最大の魅力は世界最高のソングライター=ノエルの曲を、世界最高のヴォーカリスト=リアムの「声」で歌い上げること。
リアムはノエルの曲を一回だけ聴かされて覚えてレコーディングする、とセカンドとサード・アルバムのプロデューサーであるオーウェン・モリスは語っています。
「ノエルはリアムに一度だけ歌って聴かせる。メロディ、歌詞以外にも微妙なニュアンスやタイミングなども含めて、リアムには一度しか歌って聴かせないんだ。で、リアムは初めて聴くにも関わらず、ノエルの曲を即座に覚える。あの能力は超人的だ。兄弟間の繋がりは強いよ。あんな曲の覚え方をできる人を、他には知らないな」
「Sad Song」は、既発ヴァージョンの歌唱はノエルですが、今回リアムが歌ったデモ・ヴァージョンが8月30日にリリースされた 『オアシス (Definitely Maybe) 30周年記念盤』 で初めて公開されました。ノエルが一度だけ歌って聴かせた曲をリアムがどう表現したのかがわかる非常に貴重なテイクです。聴き比べると、ノエルとリアムの声では全く世界観が変わることと、いかにリアムの声が特別なものなのかもわかる気がします。
●リアム・ギャラガーのヴォーカルによる 「Sad Song (Mauldeth Road West Demo, Nov’ 92)」
ノエルがオアシスのほとんどの曲を作っていますが、2000年の『Standing on the Shoulder of Giants』あたりから、リアムの曲がアルバムに収録されるようになります。
リアムの作品は、リアムが愛してやまないアーティストたちの影響を包み隠さず曲やサウンドに落とし込んでいるのが特徴的で、ハートフルでメランコリーなシンプルで美しい曲が多く、歌い方もちょっと他のオアシスの曲とも違う気がします。
ノエルもリアムもビートルズを愛して止まないのは公言していますが、実はノエルの作る曲には直接的なビートルズの影響をそこまでは感じないんです。でもリアムが作る曲にはより強い影響を感じます。「ジョン・レノンは俺にとってすべてを意味してるんだ」と自分のヒーローであることを公言していますし、まあ自分の息子にレノンで名づけるほどですからね。
リアムが作詞作曲した曲でオアシスのオリジナル・アルバムに収録されたのは下記。アニキとはまた違った雰囲気を持つ曲の数々は「もう、俺はこんな感じが好きなんだよ、好きなもんはしょうがねえ、悪いか!」って声が聞こえてきそうな・・・そんな気持ちがストレートに伝わってくる、これがまたいい曲なんですよ!
●Little James (2000 『Standing on the Shoulder of Giants』)
2000年発売『スタンディング・オン・ザ・ショルダー・オブ・ジャイアンツ』収録。リアム作詞作曲で初めてオアシスのアルバムに収録されたのがこの曲。当時結婚していたパッツィ・ケンジット(エイス・ワンダー)の連れ子だったジェームスに捧げた曲と言われている美しいバラード。リアム版「ヘイ・ジュード」(ジョンの息子ジュリアンへ捧げた曲)、「ビューティフル・ボーイ」(ジョンとヨーコの息子ショーンへ捧げた曲)という感じでしょうか。いい曲です!
●Songbird (2002 『Heathen Chemistry』)
2002年発売『ヒーザン・ケミストリー』収録。リアムの作品で初めてシングルになった曲です。何が画期的かというとノエルが初めて認めたリアムの曲だってこと。ノエル曰く「リアムの "Songbird "は素晴らしいと思った。この曲のデモはビートルズの "Love Me Do "に近かったんだ。そこからそぎ落としていって、このアコースティックなものになったんだ」。リアムがアコースティック・ギターを奏でるこのミュージック・ビデオも英国の薫りがぷんぷん漂うイイ感じです。後に結婚するニコール・アップルトン(オール・セインツ)へ捧げた曲と言われている、GとEmの2つのコードだけのシンプルな構成で、リアム版「Oh Yoko」(ジョン・レノン『イマジン』収録)といったところでしょうか。
●Born on a Different Cloud (2002 『Heathen Chemistry』)
2002年発売『ヒーザン・ケミストリー』収録。「ボーン・オン・ア・ディファレント・クラウド」は6分超えの大作で、ミドルの部分は「ハッピネス・イズ・ザ・ウォーム・ガン」(ビートルズ『ホワイト・アルバム』)を感じます。ジョンが乗り移ってるかのようなヴォーカルを聴かせてくれます。
●Better Man (2002 『Heathen Chemistry』)
2002年発売『ヒーザン・ケミストリー』のラストを飾るナンバー。「ベター・マン」についてリアムは以前にこんなことを語っています。「言葉はそんなに多くないが、歌よりもグルーヴが欲しかった。ジョン・レノンの「I Don't Wanna Be A Soldier Mama I Don’t Wanna Die」のようにね」。確かに『イマジン』に収録されている「兵隊にはなりたくない」の雰囲気ありますね。
ライヴヴァージョン
●The Meaning Of Soul (2005 『Don't Believe the Truth』)
2005年発売『ドント・ビリーヴ・ザ・トゥルース』収録。「ミーニング・オヴ・ソウル」は「サティスファクション」や「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」などの60年代のローリング・ストーンズを彷彿させるような。ブルース・ハープもフィーチャーしたロックン・ロール。
●Guess God Thinks I’m Abel (2005 『Don't Believe the Truth』)
2005年発売『ドント・ビリーヴ・ザ・トゥルース』収録。アコースティック・ギターのカッティング・リフが秀逸なサイケデリックな楽曲。「ゲス・ゴッド・シンクス・アイム・アベル」はタイトルの通り、『旧約聖書』に登場するカイン(兄)とアペル(弟)から由来しているんでしょう。カインは嫉妬からアベルを殺しちゃうんですね。「神は俺のことをアペルと思っているんだろうな」という歌詞はドキッとします。
●I’m Outta Time (2008 『Dig Out Your Soul』)
2008年『ディグ・アウト・ユア・ソウル』収録。このアルバムからのセカンド・シングルとなった「アイム・アウタ・タイム」は美しいバラードで誰が聴いても名曲と思えるのではないでしょうか。ジョン・レノンに捧げた曲と言われていますが、マイナー・コードを使用した作風といい、歌い方といい、ジョンへの愛情をストレートに表現していますね。更にはラストでは実際にジョン・レノンのインタビュー時の声をサンプリング収録までしています。個人的にはこの曲が一番好きですね。
●Ain’t Got Nothin’ (2008 『Dig Out Your Soul』)
2008年『ディグ・アウト・ユア・ソウル』収録。「エイント・ガット・ナッシン」はThe Whoを彷彿させるパワフルなロック・ナンバー。リアムは2002年にミュンヘンのバーで乱闘騒ぎを起こし、前歯を2本失ったことをきっかけにこの曲を書いたんだそうで、リアムは「ザ・フーにジンジャー・ベイカー(クリーム)のドラムが加わった感じ」のサウンドにしたかったとのこと。ギターには元ザ・スミスのジョニー・マーが参加しています。
●Soldier On (2008 『Dig Out Your Soul』)
2008年『ディグ・アウト・ユア・ソウル』収録。アルバムのラストに収められた「ソルジャー・オン」は困難にも負けず前進し続けることを歌った、メロウでミドルテンポのロック。ノエはこの曲について「重いブロックを背負って砂の中を歩いてるようなイメージだ。ビートルズが使ったリバーブ・チェンバーでメロディカを吹いている」と語っています。彼らの弟分的のバンド、ザ・コーラルのメンバーがハードディスクの中にあったこの曲を見つけ、絶対これを入れるべきだと進言したそう。リアはかなり酔っぱらっている時に録音したため、なんにも覚えていなかったそうで。
その他、共作した曲としては『Don't Believe the Truth』の「Love Like a Bomb」(Liam&Gem)。単独作としては『Don't Believe the Truth』のセカンド・シングル「The Importance Of Being Idle」のB-Sideに収録された「Pass Me Down the Wine」(これもビートルズを感じるいい曲)。ボーナストラック的な曲としては『Heathen Chemistry』 の日本盤ボーナストラックとして収録された「Better Man」や、『Dig Out Your Soul』の日本盤ボーナストラックとして収録された 「I Believe in All」、そのボックスのボーナスCDに収録された「Boy with the Blues」などがあります。
オアシス解散後はビーディ・アイを結成し、2枚のアルバムを残したあと、2017年初のソロ名義での第一弾『As You Were』をリリース。その2019年の『Why Me Why Not』、2020年の『MTV Unplugged』、2022年の『C'mon You Know』、2023年の『Knebworth 22』と今年2024年3月にはリアム・ギャラガー&ジョン・スクワイアとのコラボレーションを合わせて、これまでにソロ作として6枚の全英No.1を獲得しています。ノエルのNOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDSがリリース数の違いはあれど、全英No.1は4枚ですから、リアムも大したもんです。
最後に、個人的にリアムのソロ作の中で最も名曲だと思うのは2020年にシングルのみでリリースされた「All You’re Dreaming Of」。ちょうどジョン・レノンの生誕80周年、没後40年となったこの年に、ジョンに捧げたような曲です。ピアノの音色といい、歌い方といい、リアムのジョンへの想いをひしひしを感じることのできる名曲だと思います。ミュージック・ビデオのラストではYoko Onoの“This In Not Here”という言葉で締め括られます。
オアシスのフロント・マンとして、手を後ろに組んで、あの声で力強く歌い上げるリアムの姿はオアシスを決定づけるイメージだと思います。破天荒なキャラクターの一方で彼が作る繊細で優しい楽曲の数々と、なにはともあれすべてをねじ伏せてしまう変幻自在のヴォーカリストとしての「声」。様々な顔を持つアーティスト=リアム・ギャラガー、果たしてオアシス再結成後どんな姿を見せてくれるのでしょうか?楽しみですね!