ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンド『ノー・ニュークス・コンサート1979』のThe Philadelphia Inquirerレビューです。以下ざっくり訳ですがどうぞ

 

 The Philadelphia Inquirerレビュー 

 

「スプリングスティーンの「No Nukes」フィルムは、Eストリート・バンドの絶頂期を捉えている」

 

「No Nukes」コンサートから42年、スプリングスティーン&Eストリート・バンドのパフォーマンスの全映像がついに公開された。

 

新たに公開されたフィルム『ノー・ニュークス・コンサート1979』では、1979年にマディソン・スクエア・ガーデンのステージに立つブルース・スプリングスティーンの姿が映し出されている。

 

1979年9月にマディソン・スクエア・ガーデンで行われたNo Nukesコンサート以前には、ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドのライヴ録音は、フィルムでもLPでも公式にリリースされたことはなかった。

 

確かに、WMMR-FM(93.3)のライヴ放送から録音されたカセットテープなどの、ブートレッグはたくさんあった。1975年にMain Pointで行われた『Born To Run』の前のライヴや、1978年にクリーブランドのAgoraで行われた『Darkness on the Edge of Town』のライヴは、私が初めて聴いたブートレッグだった。

 

しかし、痩せていてハングリーだった1970年代の全盛期には、スプリングスティーンのショーには神秘性があり、ステージ上のエネルギーで会場の屋根がいつ吹き飛んでもおかしくないくらいの感覚があった。

 

この感覚は、1980年に公開された映画「No Nukes」で、限られた時間ではあるが、スプリングスティーンのライヴを見た時にも感じたことだ。「No Nukes」は、正式名称を「No Nukes: The MUSE Concert for a Non-Nuclear Future」という。このコンサートは、1979年3月にハリスバーグ近郊のスリーマイル島で原子炉の一部がメルトダウンしてから半年後に行われたものである。

 

この映画には、ボニー・レイット、ギル・スコットヘロン、ジャクソン・ブラウンなどが出演しているが、ニュージャージー州のロッカーとして爆発的な人気を誇っていたスプリングスティーンが、世界に向けてカミングアウトするためのパーティーとしても機能していた。

 

2回のヘッドライナー・セットのうち、当時の「No Nukes」に収録された曲はわずか3曲。「Thunder Road」、1980年に発売されたアルバムのタイトル曲でこの時が初披露だった「The River」、ゲイリー・U.S.ボンズの「クォーター・トゥ・スリー」の熱狂的なカバー、ジェームス・ブラウンへのオマージュとして、スプリングスティーンがステージ上で息絶えたふりをしてバンド・メンバーに蘇らせるという場面もあった。

41年間、スプリングスティーンのNo Nukes公演での姿はそれだけだった・・・今までは。

 

トム・ジムニーが監督したこの作品は、『Hammersmith Odeon, London '75』と並んで、1970年代のスプリングスティーンのステージを記録した最高傑作と言っても過言ではない

 

今回の『No Nukes』では、MSG公演のスプリングスティーンの映像のみを中心に、ジャクソン・ブラウン、トム・ペティ、歌手のローズマリー・バトラーがバンドにゲスト参加した、モーリス・ウィリアムスの「Stay」の演奏など、圧巻のパフォーマンスを披露している。

 

「Prove It All Night」で幕を開け、クレジットが流れる中バディ・ホリーの「Rave on」のカバーで締めくくられるまで、スーツ姿のスプリングスティーンの2つのパフォーマンスから抜粋された90分のセットは、非常にレアであるがゆえに、取り戻した宝物のように感じられる。

 

MTVの前の時代、スプリングスティーンはステージ上にカメラを近づけたくなかった。ステージ上での体験を外部の目や耳にさらすことは、パフォーマーとオーディエンスの神聖な絆を損なうことになると心配していたのだ。

 

マネージャーのジョン・ランダウとギタリストのスティーブ・ヴァン・ザントとのプロモ・ビデオ・インタビューの中で、1979年当時のボスは、「あの頃は何かを撮影することに懐疑的だった」と語っている。

 

●ザ・メイキング・オブ・『ノー・ニュークス・コンサート1979』(日本語字幕付)

 

スプリングスティーンは、「マジシャンは自分のマジック・トリックを見てはいけないといつも思っていた」と語り、スタジアムで演奏するようになる前の時期の映像がほとんど存在していないことを今となっては残念がっている。

 

とはいえ、当時の彼がそう感じたのは、パフォーマンスがあまりにも演出的で自意識過剰になることを懸念してのことだった。

 

「自分のやっていることが変わってしまうかもしれないから、見られたくないんだ」とEストリートのショーを見ることにはまだ抵抗があるとスプリングスティーンは言う。しかし、スクリーンに映る自分を見て、「自分は思っていたよりもイケてない」"という新鮮な実感に慣れてきたと冗談めかして言う。

 

「No Nukes」のオリジナル映画でスプリングスティーンをスクリーンで見たことは、彼のライヴを見たいという欲求を掻き立てる効果があった。

 

ランダウによると、映画評論家のアンドリュー・サリスは、「クォーター・トゥ・スリー」のパフォーマンスについて、"ステージ上で、前代未聞のエネルギーが生まれている "と語っていたそうだが、まさにこの映像を見ればわかる。

 

「Darkness On The Edge Of Town」のタイトルを考える際、スプリングスティーンとランダウは、サリスの本の索引を見て、映画のタイトルに基づいたアイデアを探していたという。スプリングスティーンは『アメリカン・マッドネス』を、ランダウは『ヒストリー・イズ・メイド・アット・ナイト』などを候補にあげていたそうだ。

 

No Nukesでは、「The River」と 「Thunder Road」にノックアウトされたのを覚えている。また、当時ラトガース大学の学生だった兄のニックが、ニューヨークでのライヴに行っていたのに、私にはチケットをくれなかったことに腹が立ったことを思い出す。

 

No Nukesのオリジナルのライヴ・アルバムには「Stay」や、スプリングスティーンのアンコールの定番だったミッチ・ライダーやリトル・リチャードの曲を集めた「Detroit Medley」なども収録されていた。

 

その3枚組LPは長らく廃盤になっていて、ストリーミングサービスでも配信されていない。私は地下室からオリジナルのLPを発掘できずにいるので、とても残念だ。(洪水で水没してしまったことがあったので、失ってしまったのかもしれない)。私がこのアルバムに思い入れが深いのは、このアルバムが私に多くの素晴らしい音楽を教えてくれたからだ。

 

フィラデルフィアの偉大なソウルマン、ソロモン・バークを知ったのは、トム・ペティの「Cry to Me」のカバーがきっかけだった。エルヴィス・プレスリーの「Little Sister」はライ・クーダーがNo Nukesでカバーするまで聞いたことがなかった。そして、私のギル=スコット・ヘロン人生は、「We Almost Lost Detroit」のライヴ・バージョンから始まったと言っても過言ではない。誰かあのライヴ・アルバムを再発くれないものだろうか。

 

スプリングスティーンの新作フィルム「No Nukes」は、すべてがセンチメンタルな旅でもある。バンド・メンバーのうち、サックス奏者のクラレンス・クレモンズとキーボード奏者のダニー・フェデリーシの2人は亡くなった。

 

バンドのメンバーは皆、若くて生き生きとしており、『The River』のレコーディングの最中で、ステージで解放されることを喜び、溜め込んだエネルギーを爆発させ、ステージに挑んでいる。また、カメラオペレーターのほとんどがステージ下のピットに配置されていたので、映像では彼らのパワーのピーク時だったE Streeters、特にクレモンズは、より大きな存在感を示している。

 

「No Nukes」のショーは、ジャクソン・ブラウン、ボニー・レイット、ジョン・ホール、グラハム・ナッシュの4人がNo Nukesの主催者だったが、スプリングスティーンにとっても重要な意味を持っていた。スプリングスティーンの歌は、自分の力ではどうにもならないことに人生を束縛されていると感じている労働者階級の人々をテーマにしたものが多くなっていたが、彼はまだ自分の政治性については慎重であった。

 

スプリングスティーンは、ジャクソン・ブラウンに頼まれてライヴのチケットを完売させるために参加したと言っている。しかし、彼はこの時期にスリーマイル島に触発されたプロテスト・ソング「Roulette」を書いており(リリースは数年後)、No Nukes後の彼の音楽はますます政治的になっていく。

 

1979年の映像の全貌が明らかになるまで、40年以上も待った。待った甲斐はあった。

『No Nukes』はスプリングスティーンとバンドがキャリアの中で最も白熱している瞬間を捉えているのだ。願わくば、COVID-19が去り、2022年のEストリート・ツアーが実現し、まだ書かれていない別の章がある、バンドの活動をもう一度見たいと思っているファンにとっては、この映像を見ると更にその想いは募ることだろう。

 

 

 

 

ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンド伝説のライヴ完全版『ノー・ニュークス・コンサート1979』 OUT NOW!

2CD/Blu-ray,2CD/DVDには「チケット・レプリカ」とそれを入れる「ヴィンテージ風の封筒」、

 

2LPには「ポスター」(ジャケには写っていない右端のロイ・ビタンのお姿も入った横長)が特典として封入されています!

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●『1979年のブルース・スプリングスティーンとノー・ニュークス物語』(日本語字幕付)

 

●『ノー・ニュークス・コンサート1979』に寄せて(著名人コメント)

https://www.110107.com/bruce_1979_comment