『藝人春秋2下 死ぬのは奴らだ』-水道橋博士
水道橋博士が「芸能界に潜入したスパイ」となって、様々な有名人の本当の顔に迫るという、文藝春秋(最初にアップした時「週刊文春」と誤って記載していたので訂正)の連載の書籍化第3弾。
寺門ジモンと武井壮のどーでもいー対決から、やしきたかじんの冠番組に関する裏話、小倉智昭の意外なアスリートぶりなど目を引く話は色々あるが、お笑い芸人ならではの視点というか、とにかくどのエピソードも必ず笑えるポイントを盛り込んでいて読んでいて楽しい。
私は地下クイズやってる割に芸能ゴシップにはあまり食指が動かない人間なんだけど、この本はゴシップという括りからは相当はみ出した人間臭さが垣間見られて好き。
ただこの巻に関して言えば、1番面白いと思ったのは石原慎太郎と三浦雄一郎の章だ。
ひょっとしたら日本の政治史の1ページ・・・は、言い過ぎかもしれないが、半ページくらい塗り替えるような話が載っている。
かいつまんで言うと、エベレスト登頂を果たしてヒーローになった三浦雄一郎を、参議院選挙に出馬させようという話が自民党内に上がったのだが、結局それがフイになった話があって、それにまつわる舞台裏が詳細に書かれている。
石原慎太郎がずっとそう信じ込んで周囲に吹聴していた「真実」が、実は違っていたという話で、通説を覆すスクープと言ってもいい。
なぜここまでの話が書けるのかといったら、生来の「メモ魔」である博士の性格、思想の合わない相手であっても懐にグイグイ飛び込んでいく姿勢のなせる業だと思うが、なによりも彼の立ち位置がそうさせるのではないかと思った。
博士はあくまで自分はお笑い芸人であり、物書きは「余技」であると本書の中でも語っている。
だからこそ、とりわけ政治に関連する話題などは「所詮は何もわかってない芸人風情が片手間で書いたもの」と言われないように、徹底的な事前勉強と裏取りを重ねている。
後半では頑張り過ぎて精神を病んでしまった話も書かれていて、その辺りは読んでいてこっちも辛くなるのだが。
それでも彼はこの本がジャーナリスティックなものとして読まれることを望んではいないだろうし、そういう読み方をしなくても楽しめることも確かなんだけど、単にお笑い芸人が書いた芸能界の裏話本で終わらせるのは勿体ない。本当に優れたノンフィクション作品だ。
それはさておき、エピローグで語られた立川談志の最期の落語の話には、ほとんど談志のことを知らない自分でも感情が揺さぶられた。
そして最後の一文を読んで本を閉じた時に目に入る裏表紙。
あー、やられたなーって感じ。前言撤回みたいになるけど、ただのノンフィクションでは終わらせない。やっぱりエンタメの世界の人が書いた本だった。