この本のことは、最近、カーラジオから流れてきた情報で知った。
停車中にメモし、家に帰ってすぐにネット注文した。
いささかショッキングで、あまり上品とはいえないタイトルではある。
著者はロックシンガーのダイアモンド✡ユカイ。間の✡は「六芒星(ろくぼうせい)」という、ユダヤの星と同じマーク。
たまにTVのバラエティー番組で見る、ちょっとユニークなタレントだという認識はあった。
その彼が「無精子症」(男性不妊症)?知らなかった。
例によって、まとまった書評には余裕がないので、とりあえずマークした箇所をピックアップしていくね。
それが紹介にもなるから。太字は〔ひげ〕。
この本は、「種なし野郎のダイアモンド✡ユカイが、なぜ子供を授かることができたのか?」を「種明かし」する“カミングアウト本”だ。
「女たらしで、ろくでなしのロックシンガーの人生だけれど、トリックはひとつもない」という「序文」ではじまる。
本書の1/3は、その女たらしぶりが次々と語られる。ちょっと引用するのがはばかられる表現も含まれるが、そのまま紹介しよう。
「たしかにでたらめなことは散々してきた。おれの歌を聴いて濡れない女なんかいなかった。毎日とっかえひっかえ違う女を抱いてきた。
ロックシンガーのおれを放っておく女がいなかったんだから、しょうがないよな」
「売れなくて、カネがなくても、そばにはいつも女がいた。世間の連中が見放しても、不思議と女には不自由しなかった」
どうです?この自信。世の中には、こんなにモテる男もいるんですね…
羨望を超えて「参りました」って感じだね。
こんな“モテ話”がけっこう長々続くんだけど、憎めないのは彼のキャラクターによるものだろう。
TVでもそうだけど、物言いが率直(ストレート&オープン)なんだ。自分の弱点にもちゃんと突っ込むから。
愛のない関係を続ける空しさも知っていた。
「50年近く生きてきて、本気で愛した女は十指に満たない」
うーん、50年で十指は多いのか少ないのか。
僕も、思わず指折り数えてみた…
一度は人気女性アイドルと結婚するが破たん。
今度は子どもをもうけ「ユカイファミリー」をつくる覚悟で、今までとは全然違うタイプ―“タンポポのように大地に根を張って生きている”女性と二度目の結婚をする。
二人とも同じ気持ちだったので、妻が念のために検査を受けたらまったく問題なし。準備OK。
ついでにということでユカイ氏も調べてもらったら、「精子ゼロ」のショッキングな結果が…。
「まさか…」―プレーボーイの彼のプライドは音をたてて崩れ落ちる。
彼がネットで必死に調べると、男性不妊には大きく3つの種類があることが分かった。
①造精子機能障害
②精路通過障害
③性機能障害
そして、その後の精密検査の結果、ユカイ氏は②の“輸送経路”に問題ありのタイプと判定されたのである。
言うまでもなく、②のタイプで妊娠の可能性を求めるとすれば「体外受精」しかない。
そのための不妊治療が、どれだけの精神的・経済的負担を当事者に与えるかは、まだあまり知られていない(とくに女性にとって)。
このへんの事情や実際について知ってもらうのが、本書のねらいでもある。
ただ、それを紹介するためには1行や2行では済まないから、あえて省略する。
気持ちのズレから、妻の家出や離婚の危機にも直面する。
が、それらをくぐって2人は夫婦の関係を深めることに…。
離婚届を置いて妻が家を出たあとの記述―
「子供がいなくてもユカイさんを子供だと思ってやっていきますよ」
そんな妻のことばをおれは思い出していた。
その夜、妻の顔が何度も何度も頭のなかに浮かんできたんだ。ほんとうにブスだなあ、としみじみ思いながら、愛おしくて仕方がなくなって、おれは泣いた。
読者諸君。君たちは恋人や妻や、あるいは夫を本気でブスだのブサイクだのと思ったことはあるかい?
そしてそれが、心から愛おしいと感じたことはあるかい?
う~ん、ユカイ氏ってヒトは…(苦笑)
三度目の挑戦を北九州のS産婦人科医院に替え、「着床」「妊娠」に成功し、2人は女の子を授かるのである。
僕には、その後のユカイ氏の“育メン”ぶりが、それまでの試練のプロセスに勝るとも劣らず興味深かった。
娘には「新菜」と名づけた。
ニーナ。
ロックンローラーの娘らしい、ポップな名前だろう?
こんなにも扱いづらい女に出会ったのは、うまれてはじめてだよ。
初めての沐浴(もくよく)にチャレンジして―「沐浴」って読めなくて辞書引いたらしい―、うっかり赤ちゃんを浴槽に落としちゃったんだって
数々の女を泣かせてきたのはたしかだが、娘に泣かれると、それとは比べものにならないくらい動揺するもんだね。…しかし、侮ってもらっては困る。それから経験を積んだおれは、いまや「沐浴キング」と呼ばれるほどの腕前だ。
夜泣きについても―
日中は妻が面倒を見て、夜はおれが担当するという役割分担が自然にできあがっていたんだ。
無駄に楽しんでいた数々の夜遊びも、ここへきて役にたつんだから、人生ってわからないものだね。
星空に向かって泣き叫ぶ娘をあやす。ギターを手に、口ずさむのはビートルズ。ふたりだけの「真夜中のコンサート」といったところだろうか。
ふたりきりで過ごす時間が心待ちで仕方なかった。娘と遊んでいるほうが楽しいから、夜型は変わらないものの、夜遊びとはしばしのお別れ。
毎晩のように飲んだくれて、女をひっかけていたおれでも、愛する子供がいれば、やってやれないことはない。
なんじゃ、それ
よく言われるように、娘の将来が心配とも―
たとえば、もし若き日のダイアモンド✡ユカイが目の前に現れて、「お嬢さんと結婚させてください」なんていわれた日には、どう思うだろう?
許せるだろうか?心から祝福できるだろうか?
そんなことあるはずがない!全力で止めるに決まっている。
おれに娘の幸せを託すわけにはいかない。
あれ?どうしてこういう結論になるんだろう?…
そうだ、おれ自身のことは棚に上げておくことにしよう。パパは特別枠だ。とにかく。
おれ以外の、女たらしのロックミュージシャンにだけは娘を近づけないようにしないとな。
遊び過ぎの報いじゃもっと、その自己矛盾に苦しめ
家事もやるといばってるよ。
おれは庭の雑草も抜くし、おもちゃの電池交換だってやる。
はあ、「おもちゃの電池交換」が家事…?
もう、ここまでにするけど、娘が生まれて「教育のあり方や学校という存在」に関心が高まったというところもなかなかいいセンスだと思った。
最後に…
生きることのよろこび、愛の大切さ。
これさえわかっていれば、ユカイでハッピーな女に育ってくれると思っている。
ラヴ&ピース。
こんな大事なメッセージもあるよ。
娘を授かったことは、ほんとうにこの世の奇跡だし、宇宙まで飛びあがるほどうれしかった。
でも、不妊治療を通して知ったのは、子供を授かることだけが人生ではない、ということだ。
…不妊治療に関して、いまは経済的な負担が大きすぎるというのも課題だ。
ほんとうに子供を望んでいる人たちが幸せを得ることができるように、もっとこの国のシステムも変わっていかなくちゃいけないと思う。
さて、このユカイ氏夫婦。
なんと、今年の秋にはさらに双子が誕生予定なんだって