1988年2月6日 アメリカ アトランティックシティ
WBA世界ウェルター級タイトルマッチ
チャンピオン マーロン・スターリング 42W26KO4L
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挑戦者 同級8位 尾崎富士雄 21W14KO4L
「マジックマン」の異名をとる初防衛戦のチャンピオンに挑むは、日本が生んだ最高峰のウェルター級、元日本ライト級&ウェルター級チャンピオンの尾崎富士雄選手で、プロ入り8年目の26歳、ついに掴んだ世界初挑戦…
ウェルター級の世界挑戦はこの時点で、辻本章次選手、竜反町選手に続いての日本人として3人目にあたる…
1R 褐色のチャンピオンはオーソドックススタイルで、挑戦者も右構え… 尾崎は挑戦者らしく前へ出る… そして、勇敢にジャブを突き、ボディーブローを打ちぬく… 中間距離で試合は推移する… スターリングのジャブが尾崎の顔面を弾く… スターリングはやや距離を保って待ちうけのボクシングだが、しかし、両者にとって危険な距離感での打ち合いも生まれる… 的確さで上回ったのはチャンピオンか? スターリング10-9
2R 槍のようなジャブからの、右の大きな打ち下ろしが恐ろしいスターリング… 尾崎は距離を詰め、果敢に手を出してゆく…が、当然、被弾は免れない… しかし、尾崎、なんという勇気であろうか? 恐ろしくないのだろうか? スターリングの褐色に光る腕から繰り出されるパンチはどれも鈍い音を立てて尾崎の顔から腹を的確に抉り続ける… が、怯まない… フックと一緒にその懐に果敢に飛び込み続ける… そして、その腹目掛けてパンチを繰り出す… スターリングのショートアッパーが尾崎の顎先を捕らえる… が、怯まない… スターリング10-9
3R ひたすら前へ出ながら強打をねじ込もうとする尾崎に対して、スターリングは小刻みにスキップしながらタイミングと距離を測る… 尾崎の左右フックが硬い音を立てる!!! が、どれもスターリングのガードの上に当たっている… スターリングは付かず離れずの絶妙な距離感から鋭い右ショートアッパーをねじ込む… 尾崎は全く怯まない… パンチを喰ってもまるでそ知らぬ顔でパンチを振るう… 尾崎がスターリングにロープを背負わせる…が、決定打はないか…? スターリングの右の打ち下ろしが有効だったか…? スターリング10-9
4R スターリング、身体がほぐれてきたのか、時折ガードを下げてトリッキーな動きを見せ始める… 尾崎はジリジリ距離を潰し続け、そんなスターリングの鳩尾に向かって右ボディーストレートを打ち込んだ… スターリング、コンマ数秒だが怯んだ… 観客はそんな一瞬を見逃さずに声を上げた… 効いた… 尾崎が追撃、スターリングはガードを固めたまま手が出ない… 尾崎、頭を付けて攻め入る!!! が、スターリング、右のストレートカウンターを尾崎に見舞う… さらに、ゴング間際にも右を奇麗に打ち下ろした… しかし、ここは総体的に攻め続けた尾崎のアグレッシブと右ボディーストレートを採る!!! 尾崎10-9
…と、ここで当時のアメリカのテレビ解説者の採点結果が映し出される!!
なんと「39-37」で尾崎リードだ!!!
5R ゴングと同時にスターリングが打って出た!!! 左ジャブ5連6連打!!! 尾崎、バランスを崩す!!! スターリングの左右コンビネーションに再びバランスが乱れる!!! しかし、尾崎は怯まない!! 尾崎は左右強打を振るう!!! が、スターリングのガードが固い… スターリング10-9
6R 尾崎が距離を潰して左右ボディーを執拗に攻める!!! 中間距離ではスターリングのジャブが的確だ… 尾崎はしつこくしつこくボディーを打ち続ける!!! おお、なんという闘志!!! しかし、スターリングの右クロスは鋭く、そして、的確なのだ… さらに、再三浴びたジャブのヒット数で劣ってしまう… スターリング10-9
7R 尾崎、ワンツースリーフォーファイブ…!!! 左右コンビネーションを打ち込む!!! それは非常に鋭く、どのパンチも当たり所さえよければ相手は倒れそうな強打だ!!! が、そのほとんどが絶妙にかわされてしまう… スターリングの右ストレートに尾崎が仰け反る…!!! が、次の瞬間、尾崎はすかさず打ち返す!!! その手数でこそ上回っているのだがクリーンヒットの見栄えでどうしても劣ってしまう… スターリング10-9
…っと、ここで同居の某嬢が帰宅。
すんません、ボクシングをずっと観てると嫌がられちゃうんだよなぁ…
懐かし名勝負映像鑑賞は明日に持ち越し…
しかし、尾崎選手の「勇猛果敢」、これこそは、まさに、ボクサーの剥き出しになった「矜持」と呼ばれるべきものではないか…?
本当に胸を打つ内容だ…
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…ってことで、その続きを鑑賞します!!!
8R まさに、真っ向勝負を挑む尾崎!!! しかし、スターリングのガードは固く、その長い左ジャブが尾崎の顔面を弾く… 尾崎のパンチも全く当たらないわけではないが、試合巧者はスターリングだ… スターリング 10-9
ここで、アメリカのテレビ解説者の採点が再び映し出される…
76-76…
もちろん、この数字とリングサイドのジャッジの採点が一致しているはずは当然ないし、僕の目には残念ながら尾崎の劣勢に見える…
あぁ、しかし、尾崎の「侍」的なる(…こういう表現でいいのかどうか?)『闘志』、その精神力の継続と持続は破格だ…
9R ジャブの刺し合いから尾崎の右クロスがスターリングに命中!!! よしっ!!! ところが、大きな右を振るったところでさらに強烈な右の打ち下ろしをカウンターで喰ってしまう!!! 尾崎の膝が揺れた!!! が、なんという執念!!! 尾崎はスターリングをコーナーに追い詰めると左右ボディー連打!!! そのパンチの多くが固いガードに阻まれるも、しかし、そのアグレッシブで上回ったか…!? 尾崎10-9
10R なんというタフネスと精神力… 尾崎はジャブをどれだけ浴びようとも相変わらず怯むことがない… スターリング、ステップ軽やかにリズム感を取り戻した… 長いジャブを丁寧にあてながら、そして、尾崎の強打の間隙を縫って繰り出されたのは右クロスカウンター!!! 互角に近い…が、どちらに振るかと言えば、やはり、スターリングかぁ…!? 悔しいなぁ… スターリング10-9
っと、ここで再びアメリカテレビ解説者の採点が映し出された…
10R終了時点で95-95のドロー…
11R 尾崎は散々ボディー打ちを繰り返してきたのだが、スターリングのスピードが落ちることはない… そして、リズム感が違う… まるでダンスミュージックが頭の中で流れているかのようなスターリングに対して、尾崎は圧倒的無音の境地で戦っているように思える… 自らの『心臓の音』と、自らが吐き出す『荒い息』だけが聞こえる…、そんな印象を感じる…
あぁ、学生の頃に味わったことのある、あの、懐かしい持久走の最終盤の感覚を思い出す…
世界と自分の精神が完全に分断され、ただ、己の感覚が全てになるような、あんな感覚…
しかし、20年も前の世界タイトルマッチを眺めていて、まさかこんな気持ちになるだなんて夢にも思わなかった…
それほど、尾崎のファイトはストイックにして、驚くべき精神力と執念の充実が発揮されているのだ…
が、無情にもスターリングの的確が評価されてしかるべきか…?
畜生、畜生、畜生!!! しかし、その執念の前進を評価すべきだろう…!!! 尾崎10-9
12R スターリングが距離を保つ… 尾崎がその懐で打ち合いを挑まんと距離を潰す!!! しかし、スターリングは鋭いジャブといきなりの右アッパーをヒットさせ、ひょいと距離を開けてしまう…
尾崎は第1ラウンドからずーっと前へ出続けてきた…
挑戦者らしく、そして、潔く、ただ、勝つために自分に出来る全てを吐き出さんとするために、ひたすら前へ出続けてきた…
が、老獪なるテクニシャン、「マジックマン」の異名をとるマーロン・スターリングの前に、その強打の多くは封じられ、跳ね返され続けてきた…
そして、目を覆いたくなるほどのタイミングでカウンターパンチも浴び続けてきた…
が、その「闘争心」はまったく怯むことなく、試合開始直後から最終ラウンドに至るまで、驚異的な燃焼を発揮し続けてきた…
尾崎、執念の右アッパーがスターリングの固いガードの隙間から抉り込まれた!!! 尾崎が攻める!!! スターリングがロープを背負った!!! 尾崎、攻めろ、もっと攻めろ!!! ぶち抜け、突き破れ!!!
…が、スターリングはするりと体を入れ替え、そして、尾崎の身体にもたれかかる!!!
振りほどけ、振りほどいて捻じ込め!!!
試合終了のゴングが打ち鳴らされた…
その闘魂とアグレッシブを採る… 尾崎10-9
HIGEGE91の採点 116-112でマーロン・スターリングの勝利!!!
公式の採点 117-112、118―110、117―114 3-0のユナニマスディジョンで、勝者、WBA世界ウェルター級チャンピオン、マーロン・スターリング!!!
Booooo…!!! っと、会場のどこからともなくブーイングが溢れた…
これはすなわち、尾崎選手の「勇敢」がアメリカの観客たちに伝わった…という意味ではなかろうか?
地元チャンピオンの初防衛成功の喜びよりも、日本という小さな島国からやってきた、まさに、「闘魂」に胸を打たれたからこその、ある種の不満がこのような「声」となって現れたのではなかろうか…?
しかし、善戦むなしく敗れた尾崎選手でありますが、世界のウェルター級でよくぞここまでチャンピオンを追い詰めたなぁ…
まったく怯まなかったわけですが、これ、本当に脅威の「闘魂」だったと思います…
できるんだ、日本人選手でも、ここまでやれるんだ…っと、本当に感動的な内容でした…
そして、09年10月頭に、このWBA世界ウェルターに挑戦するのは帝拳ジムの後輩にあたる「知将」、佐々木基樹選手であります…
元日本スーパーライト級、東洋太平洋ウェルター級チャンピオンの佐々木選手は圧倒的なる不利予想を背負って、敵地、ウクライナの地でこのタイトルに挑むわけですが、そんな意味もあって、尾崎選手の「名勝負」を取り上げました…
次の「懐かしの名勝負」ですが、この尾崎選手の2度目の世界挑戦にあたる、VS マーク・ブリーランド戦を「凝視」したいと思います!!!
御愛読感謝
つづく