(……続き)


あれは、数年前。

春先のまだ肌寒い時期だった。

体重100㌕を超える巨漢の筆者にとって“肌寒い”のは平気だが、“歯が寒い”のは耐えられない。

……知覚過敏である。

最初は、歯磨き後に口を漱ぐときや、うがいをするときに、

「あ゛ぁぁ……」

と奥歯に沁みるくらいの話だったが、その内、お酒を呑んでも、

「あ゛――!」

刺身を食っても、

「あ゛―――!!」

と症状が悪化していく。

 

お陰で、“水のお湯割り”、つまりは白湯しか口に含めなくなった。

実に面倒である。

 

そんなある日。

自室で書き物をしていると、

(ドクンドクンドクン……)

まるで命が宿ったかのように奥歯が脈打ち出した。

知覚過敏の個所だ、と意識した途端、それは(ドクン・ドキン・ズキン)と三段活用。

(何これ?イタタタタターーー!!)

と味わったことのない絶望的な痛みに襲われる。

 

もう顔の右半分が頭蓋骨ごと“クシャッ”となりそうで、大の大人が情けないが、涙がポロポロ止まらなかった。

 

そういうときに限ってスケジュールが立て込んでおり、医者にも行けない。

激痛に耐えながら、なんとか仕事をこなしていたが、特に辛かったのが、眠れないこと。

血流の関係か、横になると、痛みが頂点に達するので椅子に座った状態で布団を被り、一時間ほどうとうとしてやり過ごすした。

我ながら、凄まじい根性である。

 

2日後。

ようやく歯医者へ。

診察を終えた先生は、

「多分、歯髄炎ですねー」

と一言。

曰く、詰め物が取れた場所から、虫歯が進行し、神経が腐ったのだそうな。

 いや、恐ろしい。


良い機会だと、他の歯も含め徹底的にやって貰い、平穏を取り戻した。


……最近また少し、歯が沁みる。



🎩🍷