(本文より抜粋)



Q:『ハローケイスケという芸人を知っている』……唐突にアンケートを突き付ける無礼をお許し頂きたい。
しかし、知りたいのである。
2017年現在、一体何人の読者がこの質問に手を上げるのかを。


「悩むとハゲるというが、ハゲが悩みだ」
「屋根より高い鯉のぼりを見たことがない」
「小さい頃、コップに入ったおじいちゃんの入れ歯を見て、怖くて泣いたことがある」
筆者が手にしている、一冊の本。
小説やエッセー……ではなく、お笑い芸人の"ネタ本"である。

「あー、それ私にも覚えがある!」
人々の共感を笑いに昇華する"あるある"を中心に、街頭アンケートの体裁で綴られたネタの数々。

出版されたのは十数年前だが、色褪せた表紙とは対照的に、古さを感じさせぬその中身は率直に面白く声を上げて笑ってしまう。

それは、この本の著者……ハローケイスケの芸や発想が一過性の流行りものではない事の証(あかし)。
実際、流行りはしなかった。


ハローケイスケ(以後、ハローと略)。
ペナルティー、DONDOKODON、ロンドンブーツ一号二号と華やかな顔触れを同期に持つ、芸歴二十六年目のベテラン芸人。
御歳、四十六歳である。

2004年の『エンタの神様』初登場以降、同番組に出演すること十数回、冒頭に掲げた『ハローケイスケのあやしいアンケート』なる著作も刊行したが一世を風靡……とまでは行かず。

"紅白出場"、"流行語大賞"、"皆が真似して社会現象となった"等々の、一発屋の定番エピソードには縁がない。
スイーツで言えば、ティラミスやナタデココではなくカヌレと言ったところか。

しかし、一方では、
「皆から本当に才能のある人間だと言われてた。カリカ(現在は解散)かケイスケかみたいに」
ハローをよく知る後輩芸人の証言だが、仲間からの評価も高く、将来を嘱望された時代もあった男なのである。

だが今現在、彼の消息は殆ど聞かれない。
実際、冒頭の質問に挙手した読者は、百人中十人……いや五人にも満たないだろう。
本連載の取材時に準備する年表にも空白が目立つ。
埋めようにも、過去のインタビュー記事等の資料が、他の一発屋に比べると、ほとんど見当たらないのだ。
その足跡の少なさは、
「彼は、本当に存在したのか……」
と疑心暗鬼に陥るほど。



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