競馬場に訪れた。
営業の仕事である。
貴族は、競馬場に行くと、醸し出す“馬主感”が凄まじい。
勿論、実際には馬の面倒を見る余裕などない。
“陸(おか)サーファー”と似たようなもんだ。
この手のお笑いステージには、進行を務める女性司会者がつきもの。
これが厄介。
やたらとハードルを上げたがる。
我々の漫才、お笑いステージが終わると、
「ありがとうございました―!」
舞台に飛び出してくる。
しばし、形式的なトークのラリーをこなした後、
「さあ、本日は、御来場頂いた皆様に、豪華なプレゼントを用意しております!!」
“豪華プレゼント”の正体を、既に知っている僕は、途端に気が滅入る。
別に僕が名探偵だからではない。
先程、楽屋で自ら書き、用意したからである。
我々、髭男爵のサイン色紙。
計十名様。
もっと他の言い方がないものか。
「お荷物になるでしょうが、よろしければ、お持ち帰り頂きたい粗品がございます!」
これで十分。
しかし、僕の気持ちを知ってか知らずか、笑顔を絶やさぬ彼女。
おもむろに、番号を読み上げ始める。
「三番、十二番、三十番・・・・」
事前に抽選しておいた、何かの半券に記された番号・・・計十名様分。
後ほど、某所で引き換えて頂く。
そんな段取り。
その日、就寝前のエゴサーチで僕の目にとまった、つぶやき。
“さっきから係の人が、「髭男爵のサイン当選された九十番の方――!」って言いながら、歩き廻ってる・・・かれこれ十五分くらい”
言わんこっちゃない。
楽屋に現れた昭和の怪奇レスラー↓