赤ん坊を摸した人形で、そのパッチリとした愛くるしい目は、横にして寝かせれば、瞼がスッと降りてきて眠ったように見える。
子供が触れるものという気遣いから、その肌の質感も柔らかく出来ている。
よく出来た人形。
反面、この「ポポちゃん」、一々、金のかかる“女”でもある。
“おむつ替えセット”からはじまる衣類関係。何パターンかある。
お出かけ用、部屋着、パジャマ。
哺乳瓶。これを、ポポちゃんの口に押し当てると、「ゴクゴク・・・ゴクゴク・・・おいし~!」などと喋る・・・哺乳瓶自体が。
はた目には人形が喋ったように見える。繰り返すが、よく出来ている。
“歯ブラシセット”であるとか、髪の毛を切るはさみ(実際は切れない)であるとか、“ピクニックセット”だとか、ドラム式洗濯機、アイロン、物干し台などの洗濯関連。
ぽぽちゃん専用の、“ベビーカー”まである。
これに、人形を乗せ、娘が押して、お買い物ごっこをする。
このベビーカーもいたく気に入っており、まだ自分もベビーカーのお世話になることがある身でありながら、外出時にぽぽちゃんとベビーカーを持っていきたがる。
ベビーカーのマトリョーシカ。嵩張ることこの上ない。
他にも、我が家では購入していないが、ベッドにトイレに、果ては、“家”まである。
子供が二人入れるくらいの、小さなテントのようなものだが、玄関のドアや、インターホンなどもついている、立派な一戸建て。
“家”までいけば、もう打ち止めだ・・・安心はできない。
“お風呂に入れるぽぽちゃん”というのもある。
また一から出直しである・・・逃げ道はない。
なぜ、最初から“水陸両用”にしないのか。
そんなぽぽちゃんの“取り巻き”の一つに、注射器、体温計、お薬等々の“お医者さんごっこ”が出来るセットがあり、これに娘がハマった。
娘が人形に話かける。
「はい、ぽぽちゃん、おねつはかりますよ~・・・あっ、これはありますね~、おちゅうしゃしますか~・・・」
そして、注射をし、薬を飲ませ、寝かせる。
「なおりましたね~・・・」と娘。ここまでがワンセットである。しかし、ものの三十秒もしないうちに、よほど体が弱いのか、ぽぽちゃんは再び発病。
すると、娘が、
「おねつはかりますよ~・・・」
無限に続く闘病生活。
かくして我が家のぽぽちゃんは、スティーブン・キングの名作、「ミザリー」さながらの、“寝た切り入院生活”となったのである。
娘はぽぽちゃんの治療だけでは飽き足らず、僕にも“お医者さんごっこ”を迫ってくる。
人形に対するのと同様の流れで、熱を測り、注射をし、薬を飲まされ、横になる。
「だいじょうぶですか~?なおりましたか~?」
と聞かれるので、
「なおりましたよ~!」と答えると、
険しい表情になり、「ちがうでしょ!なおらないでしょ!」
なおらないでしょ・・・恐ろしい言葉を発し、また娘に注射され、僕は横になる。
どんなに娘が優秀に育ったとしても、医者にだけはしてはいけない。
知らんけど。