「一発屋仕事」・・・そんなカテゴリーの職業は、どんな求人誌にも載っていないが、そう呼称するしかない仕事は確実に存在する。
例えば、「“最高月収”を言う」という仕事。
これは、文字通り、我々一発屋と呼ばれる芸人が、そのもっとも“売れていた”時期の月収などを発表するというお仕事である。
ある時期、この手の“求人”が殺到し、多くの番組で、数々の一発屋が、かつての収入を自ら暴露するという場面が頻繁に見受けられた。
「当時の最高月収は・・・・○○万円です!!」と発表すると、居並ぶ“一発屋ではない”、“レギュラー”の出演者の人々が、「え―――――――――!!!」と、驚愕の声をあげる。
いやいやいや。
勿論、お仕事として“そうして”おられるだけだ。
でもあえて言いたい。
「え―――!!!」はこちらの台詞である。
無理がある。あくまで僕の勝手な憶測に過ぎないが、そういう人達の方が、むしろ、当時の我々の“最高”などより“もっと”、そして、“ずっと”、さらには“今まさに”、そしておそらくは“これから先も”、何年にも渡って稼いでらっしゃるであろうと推測されるので、複雑かつみっともない。自分が。
視聴者にしても“その辺”を理解している方々は少なくないはずである。ちょっと考えれば分かる話だ。
本当の、順風満帆なお金持ちの前で、期間限定で多少の小金を手にした人間が胸を張って自慢している・・・みっともない。
何より、そんな風に感じてしまう人間は、つまり僕のことだが、芸能界なんて向いてない。
大体、この手の企画は、この後、今現在の月収を発表し、その落差、落ちぶれ具合を堪能していただくという流れを経て、幕を閉じる。
愚痴はさておき。
そういった「一発屋仕事」をする前の打合せ、これがまた厄介なのである。
スタッフの人が、企画の趣旨説明、その本題に入ろうとするその瞬間。
言いにくいことを言わなければならない時特有の、会話の淀み。空気の変質。
船が方向転換した時に僅かに感じる愉快ではない“g”、生じるさざ波。
言い方は何でも良い。要するに気まずいのだ。
「・・・で、今回の企画なんですけど、あの・・・これ、すいません・・・本当に失礼な言い方になって申し訳ないのですが、一発屋の人達を集めてですね・・・」
口調や文言は多少変われども、いつも大体こういう感じ。こちらが恐縮してしまうほどの丁寧さ。
ありがたい。基本的に礼儀正しい、常識的な人が多い。
ただそれがまずいのである。
さながら、不治の病を本人に告げる医者のような、重々しい、苦渋に満ちた物言い。
誰が患者だ。
こちらは、「いやいや、全然大丈夫ですよ!」などと応じて、先を促す。
“一発屋”の打合せにはもれなくこのラリーが付いて回る。
(続く)
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