この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。
「大 君」 28
座敷が一気ににぎやかになった。
小学生の幸太郎が、父親の新吉に連れられてやってきた。
「初めてお目に掛ります、本田新吉いいます、左官をやってますんや。
これは息子で幸太郎です、丁度十歳ですわ。
何やお母が世話になってるようで恐縮です。
急に呼び出されたんで事情が読めませんのや、宜しゅうお願いします」
丁寧に挨拶を述べた。
「そんな堅苦しい話は抜きや、
タエさんが佐久衛門さんの件で、
察からヒツコイ事情聴取を受けて、
大変やったやろと労いの飲み会を開きましたんや。
話を聞いてたら息子さんとお孫さんに、夕飯の準備もしてないと聞いたもんやから、
ぜひここへ呼びなはれと誘うたんですわ。
そんなんやから、にぎやかに飲んだら楽しいと思うただけですわ。
ここは料金は安いけど、料理は一流ですわ。
今日はワシの奢(おご)りですわ、安心して飲んどくなはれ。
幸太郎君もお腹減ったやろ、好きなもん何を注文してもエエから、
お腹いっぱいにしてや」
龍蔵の言葉に、幸太郎が笑顔でうなずいた。
ーつづくー