この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。
「現の証拠」 9
千恵は、自分の考えを誰にも話すまいと決めた。
なぜなら、犯人は父母と親しかった人物だと確信を得たからだ。
千恵が、周り近所に相談すれば犯人の耳に入るのは必然だ。
しかし、一人で犯人を捕まえる手立ても妙案もない。
その上相談する人がいないとなると……。
一気に不安の波が押し寄せた。
本来なら、叔父は父の弟であり隣に住んでいる。
事件があって以来世話になっている、一番相談できる人物に違いないが、
叔父は市会議員の職にある。
誰かれとなく相談するかもしれない、そうなれば犯人が気付くに違いない。
犯人に警戒心を与えては、探し出すのが難しくなる。
千恵が買い物から帰ると、玄関に二人の男が待っていた。
「こんにちは、先日は大変でしたね、少しは落ち着かれましたか?」
「どちら様でしょう}
「失礼しました、先日出向いて頂いたM署の者です。
先日は、気が動転されてる時に事情を伺いましたので、
満足に話される状態じゃ無かったと思います。
そこで気持ちが落ち着かれ時点で、再度お話はと思いまして」
刑事二人が頭を下げた。
顔を見ても、事情を話した刑事だとは思い出せなかった。
気が動転していたし、何を聞かれ何を答えたのか記憶にないのだから致し方なかった。
「どうぞお上がりください」
刑事二人を玄関に案内した。
「部屋は、畳もあのままですので、こちらの間で宜しいでしょうか」
千恵は玄関わきの応接間に通した。
ーつづくー