この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。
「飛 礫(つぶて)」 11
「忍ちゃんは、ニコニコして笑顔が絶えんけど、何か秘訣でもあるんかいな?」
龍蔵の問いかけに、満面の笑みでこたえる。
「お婆ちゃんが生きてた頃、よう言われたわ」
「そうやろ、その笑顔見てたら周りがみんな幸せになるわ」
「おっちゃん、それは違うんや、まるっきり逆さまや」
「逆さま?」
「そうなんや、お婆ちゃんは、わたしがニコニコしてると嫌な顔して怖い怖い言うたんや」
龍蔵は意外な答えに聞き直した。
「怖いて、どう言う意味や。笑顔が何で怖いんや?」
「お婆ちゃんが教えてくれたんや、お婆ちゃんが小さいころ、
家が貧乏で白いご飯が食べられへんかったんや。
麦飯が最高のご飯で、麦飯のときはオカズが無かったんや。
普段は、大根の葉やニンジンの葉を食べて蛇やカエルまで食べたらしい。
そんなとき笑顔を見せたら親が怒ったらしいんや」
「何で親が怒るんや?」
お爺が訊ねた。
「それはな、親が裕福やったら笑顔で子供と生活できる。
子供は親の笑顔に安心して甘えられる。
そやけど、親が貧乏で泣いてると、子供は我慢して笑うしかないんや。
お婆ちゃんは意識して笑うてたらしい。
お婆ちゃんは、貧乏な頃を思い出すから笑顔が嫌いなんや」
理由が解った二人に言葉がなかった。
「ほんなら、いつも笑顔でいてる言うことは、
親が苦しゅうて泣いてる言うことかいな」
お爺が、三重子の顔をうかがう。
「確かに楽やないけど、この子の考えすぎですんや」
否定する三重子の目に涙がうかんだ。
「そんでもな、わたしはあんまり気にしてないんや。
そやから学校で苦しいと書くときがあったら、
くの字を逆さまに書くんや、そしたら苦しいの逆さまやから楽しいと読めるやろ」
「くの字を逆さま?」
龍蔵が訊ねた。
「くの字を鏡に映したら逆さまに映るやろ、そやからくの字を逆さまに>と書くんや」
お爺が感心して頭をなでた。
「お爺ちゃん、オオテや、やっぱり私の方が強いわ」
話に夢中になってた爺さんが一本取られた。
-つづくー