この小説はフィクションです



                        「沙 蚕」  18



「お局ハンは、何でアンタらに金をよこしましたんや?」


 龍蔵が問いかけた。


「そら、新しいドアをつけたからですやろ。


建築屋に断られて、ワシらが行かんかったら、


ドアを設ける事できませんでしたからな」


 島田が、真剣な表情で答えた。


「そんでも、今まで無かったドアや。


ナンボ作らなアカン思てたにしても、


急に思い立ったようにこしらえたんが、


何や気になりますんや。


偶然かもしれんけど、


ドアを作って直ぐに宝石や現金の盗難事件ですやろ。


犯人の行動を手助けするためのドアやった、


それは考えすぎやろか?」


 龍蔵が、三人を見回した。


「それは偶然やと思いますわ。


逆に考えたら、そんな疑われるような事を、


犯人や協力者がしますやろか。


ワシらが作ったドアは守衛室の横やし、


社員や外部のモンが出入りした時に、


守衛がチェックできますんや。


ドアの設置場所には最適な場所やと思いますわ。


事件の関係者が利用するためのドアやったら、


わざわざ守衛室の横には作りませんやろ。


ナンボ夜中の犯行やいうても、守衛は交代で勤務してます。


特に、宝石展の開催中は、


専属の警備員を増員して張り付いてたんですで。


どないして出入りしたんかしらんけど、


あのドア使うて出入りするんは、


忍者でも難しい思いますんや」


 村上が、不可能やと断言する。


「確かに、アンタの言うことは正論や。


宝石類が、百や二百の数やったら、


トランク一つ有ったら入れられる。


そやけど奴らは、現金まで盗んでるんや。


小銭は持ち切らんかったんか、札だけ盗んでるんや。


それも、月末の土日二日分の現金やから、


トランク一個では収まらん量なんや。


それらを考えたら、単独での犯行は無理や。


少なくても二人はおらんと持ち出せん筈なんや」


「そうですやろ、そんな状況やったら、


なおさら複数の犯人がトランク抱えて、


新しゅう作ったドアから出入りするなんて不可能なんですわ」


 村上が、再度否定した。


「お局ハンは、どう言うてまの?」


 お局に話を振った。


「そのお局ハンやけど、


ここんとこ機嫌が悪いんですわ。


ドアのことを龍蔵ハンが質問したように、


警察でもひつこう追求された言うて怒ってましてな。


何や、私が犯人みたいに疑いを掛けられてる言うて、


ご立腹ですんや。


保険を掛けんように、


店長にアドバイスしたんもお局ですやろ。


疑いの目で見られるんはしょうないにしても、


本人にとったら迷惑な話なんですわ」


 お局の状況を、村上が伝えた。


                          -つづくー


              トラちゃんのスケッチ