この小説はフィクションです



                      「はちす」  25



「二人が生きてるとしたら、何かで稼がな生活できん。


今言わはった新興宗教、有りえる話ですな。


二人ともエエ歳や、貫禄がでて爺様みたいに髭でも生やしたら、


荒垣や比嘉には見えんかもしれん」


 爺様が頷いた。


「そうかと言うて、大島や沖縄にはおらんと思うわ。


沖縄で新興宗教始めたら、目立ってしょうがないがな。


池田夫婦を殺した時、有り金全部奪うたそうやないか。


新教団の資金にしたんかもしれんな。


比嘉は殺人容疑で指名手配されてる身や。


目立たんように変装して、神職面してるんかもしれん。


あくまで想像やけど、


荒垣がショッチュウ新興宗教の話をしてたから、


ズバリ当たってる可能性がある。


何十年も手掛かりなし言うことは、


新商売で、悠々自適の生活してるんかもしれん。


荒垣の息子が、池田夫婦を殺したようやけど、


裏で糸ひく荒垣の姿が気になるわ。


警察の網かいくぐって逃げ果せたいう事は、


荒垣と比嘉が匿った可能性があるで。


それが新興宗教や無うても、


違う商売をやってて身を隠してる可能性もある。


思い出したけど、敗戦を覚悟せないかん状況になった時、


怪情報が乱れ飛んだんや。


本土から、多量の援助金が送られて、


軍隊の連中はそれを隠して逃げる段取りしてると言う情報や。


みんな疑心暗鬼やったけど、充分有りえる話やった。


連隊長やった荒垣は、最後に残った十数人の兵隊を前にして、


「みんなで手分けして救援金を探そう。


ワシらの働きに、国家が与えてくれた金や。


大手を振って受け取れる金や。


生き残ったこれだけの隊員でも、幸せになる権利はある筈や。


ワシらが幸せになる事は、国家が望んでる事や」


 勝手な理屈つけて命も危ない言うのに、金の亡者になっとった。


荒垣の根性みた気がしたわ。


池田さんは、台湾人や。


敗戦で日本人が処罰されても、


強制的に参戦させられた台湾人は処罰されんと読んだ。


金を見つけたら、池田に預けて知らん顔してるように命令した。


戦後になって、


池田さんが多量の現金を隠し持ってると信じたんやないやろか?


ワシも、隠し持ってるかどうかは知らん。


そやけど、あの噂がホンマやったら、


池田さんが隠し持っててもおかしゅうない。


そやから荒垣は、息子を店に潜り込ませて、


現金の隠し場所を模索してたんやないやろか?


池田さんが、預金以外の現金を持ってないと読んで、


預金を全額下ろして殺害したような気がする」


 爺様の推察は、照屋には頼もしく映った。


                          -つづくー


             トラちゃんのスケッチ