東本京史 「トラちゃん文庫」


                                           この小説はフィクションです



                       「口 伝」  20



「賢明な判断て、どう言うことですか?


それほど病状が悪いんですか?」


 健治が聞き返した。


「病気も、安心できる状態や無いんは確かです。


美香さんは悩んでる事がギョウサン有りますんや。


美香さんの言う通りにしてあげるんが、小暮さんの務めです。


それがお互いの幸せにつながりますんや」


「……電話じゃ何やから、その話も聞かせて貰えませんやろか。


お願いします」


 受話器に取りすがった。


「解りました、会うて話はしますけど、


個人の事や話して人に迷惑が掛かる事は喋りませんで」


 やっと了解の取れた健治は、


飲んだくれの住所を教え電話を切った。


病気以外に何かあるんや、結婚を断る理由が。


婦長の死と美香の謎、健治は山本に期待した。


 さっそく龍蔵に伝えようと飲んだくれに走った。


「龍蔵さん、やっとの思いで、


山本さんに来てもらう事になりました」


 今晩飲んだくれに来てくれる事を伝えた。


「そうか、色々聞きたい事が有るんや。


婦長の手掛かりが掴めるかもしれん」


 龍蔵が酒を注いだ。


「ただ、山本さんは、人に迷惑かかる事は話さん言うてますんや。


知ってること全部話してくれたらエエんやけど……


俺も聞きたい事ができましたんや。


結婚を断る積もりで行ったら、逆に断られましたんや」


 龍蔵が驚きの表情をみせる。


「断られた? 何でや」


「それが、病気を理由にしてるんやけど、


医者に聞いても、個人の結婚話にまで立ち入らん言われるし、


断られた理由がさっぱり解りませんのや。


山本さんには、美香さんは賢明な判断したと言われたんですわ」


 龍蔵が眼をしかめる。


「病気の他に何か訳が有りそうなんですわ」


「その山本ハンが、内情を知っていそうやな。


今晩来てくれたら、何とか話してくれるように努力するわ。


そうせなあんたもスッキリせんやろ。


そやけど、個人的な事は迷惑が掛かるから話せん言うんやろ。


ここは正念場や、何とか山本さんから……」


 龍蔵が腕組みをして考え込んだ。


                           -つづくー


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