東本京史 「トラちゃん文庫」


                                           この小説はフィクションです



                  25  「なぁ なぁ」  14




 賑にぎやかな女たちが退散した後、


龍蔵は電話のダイヤルを回した。


「龍蔵ハン、どないしましたん? まだ支払日はきてませんで」


 威勢のいい声が伝わる。


「取立てやないんや、一杯奢おごるから頼みたい事があるんや」


 龍蔵が誘いをかけた。


「それはオオキニ、片付けも終わったし、直ぐに行きますわ」


 魚屋の主人金治が快く返事した。


店の改築資金を龍蔵が貸し付けている。


<飲んだくれ>の仕入先でもあり、低利で融通している。


「鉄、そろそろ閉店やろ。


いま魚屋の金治が来るから、お銀と一緒に一杯やらんか」


 鉄が調理場から、手をあげた。


お銀が酒の準備を始める。


「お待ちどうさん、安い利息で貸してもろうて、


その上一杯飲ましてもらえるやなんて、


うれしすぎて、胃袋がキュウキュウ泣いてますわ。


そんで、頼み言うんは何ですの?


むつかしい話はアキマせんで、小学校しか出てないんやから」


 笑いながら、白髪頭を撫でる。


鉄が大皿に肴さかなを盛り付けてきた、お銀が酒を勧める。


「そんな難しい話やないんや。


金治ハン、確か年金受け取ってましたな?」


 金治が怪訝けげんな顔をする。


「大した金額やないけど、受け取ってますで。


ワシが受け取ってるんは、国民年金ですわ」


 金治が酒を口にやる。


「その年金担保に金借りてないやろな?」


 龍蔵が質問する。


「そんなん有る訳ないわ、年金を担保に金は借りれませんやろ」


 金治は初耳らしい。


「それが有るんや、表看板は質屋みたいに装うてるけど、


ていのええヤミ金や。そこへ行って五万ほど借りて欲しいんや」


 龍蔵が、策略の一歩を歩み始めた。


「ワシ、これ以上借金したら、龍蔵ハンに返せまへんがな。


相手はヤミ金、利息も高いですやろ」


 金治が不安な顔をする。


「利息は確かに高い。


せやけどな、ヤミ金だけあって悪知恵を働かして、


法定ギリギリの商売しとるんや」


 説明が始まった。


「ヤミ金が法定ギリギリの商売?」


 金治は首をかしげた。


                          -つづくー


              トラちゃんのスケッチ


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