東本京史 「トラちゃん文庫」


                                            (この小説はフィクションです)




                   ⑮  「枯れ花」  (13)




  龍蔵は、腕を組み思慮を巡らせた。


「人助けや言うたな、人助けやったらヤクザや侠客にならんでも、


他にナンボでも方法が有るがな。


例えばや、学校の先生になって、


子供らにいろんな事教えるのも人助けやし、


政治家になって、国民の為に尽くすんも人助けや。


一生懸命働くんが、人助けになるんや。


お爺ちゃんやワシを見習う前に、


学校へ行ってイッパイ勉強するんや。


人を助けようとするモンが、


勉強しとらんかったら恥かくだけや」


 龍蔵に、説得する方法が見つからなかった。


「勉強は人に言われんでも、やるわいな。


その他の事を、おっちゃんが教えてくれたらエエんや」


 龍蔵は、追い込まれた気分になった。


「解った、一生懸命勉強するんやったら、何でも教えたるがな」


 等々龍蔵が折れた。


「サトさん、この子は三吉ハンのお孫さんだけ有って、


ドエライ男になりますで。先が楽しみな子や」


 サトに笑が漏れた。



 二日後龍蔵の下もとに、出入りの情報が入った。


神崎新地を縄張りにする神崎連合北村組の若い衆が、


福原の一心会に殴り込みを掛けたらしい。


神崎新地の女郎屋から足抜けさせて、


福原で働かせてたのが発端やと知らされた。


「神崎新地で働いてた女を、福原に持っていって働かせるなんて、


大胆な事やったもんやな。


これは、素人の仕事や無いな、


ソンでもモット遠くで働かしたらバレんもんを、


何で直ぐ見つかるような事したんか不思議や。


関西の事情を知らん奴の仕事かもしれん。


それで、その殴り込みは成功したんかいな?」


 逸いち早く情報を持ってきたオカマの梅若が、


出された酒に手をつけた。


「龍ちゃんの言う通りや。


神崎新地から福原に女を流したら直ぐバレるわ。


アンマリ大胆やから、北村組が頭にきたんや。


面子メンツも有るし、殴り込むんは当たり前や。


急な殴り込みやったモンやから、


一心会は対応出来んでコッパにやられたらしいわ。


何でも、刀の遣つかい手が居って、何人も首を飛ばされたらしい」


 梅若が、解説する。


「何いー、刀の遣い手が居った?


そいつは誰や? マサカ銀造と違うやろな?」


 龍蔵が、梅若を覗き込む。


「そうや、その銀造とやらが暴れたらしい。


北村組の客人らしいで」


 梅若の返事に、龍蔵が唸った。


「それでも、何か話がオカシイな。筋が通らんのと違うか?


と、言うのはや、銀造が刀振り回したんやったら、


銀造は、北村組にワラジを脱いでいた事になる。


それは、北村組の客人やった事で証明できてる。


そやけど、


その北村組が目を光らす神崎新地から女を足抜けさした。


銀造やったら、人攫さらいの経験が有るから、


関わった事に間違い無いやろ。


銀造が福原の一心会に世話になってて、


足抜さした女を福原に連れ戻ったんなら話しはわかるけど、


北村組に世話になってて、


裏切って女を福原に回したとなると、


理屈が合わんやろ。


世話になってるトコに、後ろ足でドロ被せるような事をするやろか。


もし、やったにしたら裏切りや。


一心会にしても、女を回してもうた事は喜んでも、


殴り込みを掛けられて、何人も切り倒されたら割が合わんやろ。


一心会もいっぱい食わされた事になる。


今の話しがホンマやったら、


銀蔵はドッチも裏切った事になるんやで。


ドッチかの差し金やったら解るけど、


両方を裏切った言う事になったら、何か裏が無いと不自然や」


 龍蔵の説明に、梅若が首を傾かしげた。


二人の話しを黙って聴いていた太一が、コッソリ抜け出した。


                           ーつづくー


              トラちゃんのスケッチ


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