東本京史 「トラちゃん文庫」


                                           (この小説はフィクションです)




                   ⑭  「余 命」  (24)




   連絡を受けた近藤デカは、誘拐犯喜蔵を緊急手配した。


そして、事情を聴くため<飲んだくれ>に駆け付けた。


「龍ちゃん、えらい事になったな。


任しとき、目の悪い二人を攫さろうたんや、


行動範囲も限られるし、人目につくから直ぐに確保できる。


来る途中で連絡が入ったけど、病院からタクシーを利用しとる。


タクシー待ちで並んでるのを押しのけて乗り込んだから、


ギョウサン目撃者がおるんや。


タクシーの特徴から直ぐに運転手を突き止めて、


行き先を確認したんやが、それが何と宝塚なんや。


運転手は、変やと思たらしいわ。


と言うんも、目の悪い人を連れて宝塚に行っても、


歌劇は観れんやろし遊園地もおかしい。


宝塚で降ろしてバックミラー見たら、


直ぐに別のタクシーに乗り換えたらしいんや。


運ちゃんがタクシー会社覚えてたから、


今手配してるとこや。


足取りが掴めてるから、心配ない。


だいたい誘拐なんて犯罪で成功したんは少ないんや。


次は確保の連絡が入って来るわ」


 近藤は、解決は目の前だと楽観視する。


「タクシーを直ぐに乗り換えた言うことは、


足取りを消す為の細工かいな、幼稚な考えや。


アイツ祖母ばあちゃんが帰って行くのを見張ってたんや。


踊りを習うてた時の師匠やし、昨日コテンパンにやられたから、


祖母ばあちゃんが苦手なんや。


帰るのを見届けて電話してきたんや。


目的は、二人の財産や。今に金よこせ言うて電話が入ってくるわ」


 瀧蔵が、喜蔵の行動を分析した。


「それやったら、逆探知をつけさすわ。


それまでに逮捕できるやろけど、念のためや。


あの二人は、そんな財産持ちかいな?」


「遺産相続が有りますんや、そやけど、これから手続きや。


まだ入ったんや無いのに、えらい急いだもんや。


そうとう切羽詰まった状態やな。


手元に、まだ現金が入って無いと分かったら、


何しでかすか分からん、それが怖いんや」


 瀧蔵が、焦る喜蔵の胸の内を分析した。


鉄が入って来た、神妙な面持ちで元気がない。


「ワシが病院へ一緒に行ってやってたら、


こんな目に遭わんで済んだのに、


仕込中やったから手が離せんかったんや。


ホンマ、ドジってしもたわ」


「鉄が気にする事や無い、一緒に行ってたら、


ヤツもまた、違う方法を考えたはずや。


犯人が分かってるんやから、そんな心配する事やない」


 瀧蔵が、慰なぐめた。


電話を掛けに行った近藤が、席に戻った。


「龍ちゃん、宝塚からタクシー乗り換えて、


何と、そこの大阪球場で降りたらしいわ。


運ちゃんは、気にしてなかったから、その後は分からんのや。


何でミナミに舞い戻ったんやろ?」


 近藤が首を傾かしげた。


「遠くへ逃げるんやったら解かるけど、


ミナミに帰って来る言う事は、この界隈に何か有るんや……」


 瀧蔵が、カウンターの電話を回した。


「会長、竜二ハンと若い衆貸してもらえまへんか。


ミナミで探したい人間がいてますんや」


 瀧蔵の声に、即断で了解の返事が返ってきた。


ミナミをシラミツブシに当たれば……瀧蔵が動き始めた。


                          -つづくー


              (トラちゃんのスケッチ)


東本京史 「トラちゃん文庫」