(この小説はフィクションです)
⑭ 「余 命」 (11)
龍蔵は、磯乃の想像が的を射ているような気がした。
しかし感傷に溺れてる時ではない。
事態の急変に対処しなければならない。
「近藤ハン、弟の喜藏が出所して捜索願を出した。
その喜藏が、何で財産を狙うてるて解りましたんや?」
喜藏の行動に疑問を抱いた。
「昔捜査上で世話になった県警のデカが、話してくれたんや。
このデカは、喜藏を強盗傷害で逮捕したデカなんやけど、
出所後の事が気になってたらしいんや。
突然署に現れた喜藏が捜索願を出したモンやから、
何の為の捜索願やと聴いたらしいんや。
ところが喜藏もシタタカで、
親戚の姉妹が心配やから、の一点張りやったらしい。
出所して自分の身の振り方も決まってないモンが、
ナンボ親戚でも捜索願まで出すのはオカシイ。
人の世話焼いてる時や無いと判断した訳や。
そこで身辺を洗うたら、お二人の亡くなられたお母さん、
多美たみさんの実家に出入りしてる事を聞き込んだんや。
早速、実家に行ってお祖母ばあちゃんに話しを聴いたら、
喜藏が突然現れて、
兄貴が首を吊ったんも、多美さんの目が不自由になったんも、
瞽女ごぜになってまで苦労したんも、
全部アンタラ夫婦が兄貴との結婚を認めんで、
勘当までしたセイや。
今となっては、二人を供養することしか報いる道は無いんや。
祖父じいさんが残した財産を、娘二人に渡すんが通りやろ。
姉妹はアンタラの孫や、受け取る権利が有るはずや。
可哀想に、この地を離れて行方不明や、
ワシが探し出すから遺産を充分に渡してやるんや。
そう言うて凄んだらしいんや」
近藤が喜藏の言動を説明した。
「それは筋が通った話ですがな。
何で喜藏が財産を狙うてる事になりますんや?
二人の為に尽力しよう言う事と違いますんか?」
龍蔵は、腑ふに落ちない。
「ワシも最初はそう思たんや、ヨクヨク聴いてみると、
喜藏はズル賢い奴で、そんな愁傷しゅうしょうな人間や無いらしい。
金に困ってる喜藏が、考え出した策略やとデカは言うんや。
自分に受け取る権利が無いモンやから、
お二人に託かこつけて、財産を奪う魂胆やと言う訳や」
龍蔵には、喜藏の行動が善か悪か判断がつきかねた。
ーつづくー
(トラちゃんのスケッチ)