東本京史 「トラちゃん文庫」


                                          (この小説はフィクションです)




                   ⑬  「潜 像」  (26)




  翌晩も一夫は公園に出掛けた、


作戦に、大した効果が有るとは思えなかったが、


他の手段が思い付かなかった。四人が、約束通り現れた。


「一夫君、もう勘弁してもらえんやろか、


これ以上ヤラレたら、警察に届けよう思てるんや」


 先生の言葉が、一夫の心に火をつけた。


「警察? どうぞどうぞ。何を訴える言うんや?」


 一夫は落ち着いている。


「恫喝どうかつとか……」


 先生が、か細い声で答える。


「恫喝? これが恫喝やったら、


俺がイジメられたんは何になるんや?


暴行傷害? 傷害致死?  恐喝? 強盗? 


罪名上げたら結構な数になるで。


立証できんかったら、起訴にならんのやで。


俺は、裁判なんてまどろっこしい事面倒やから、


自分で制裁する事にしたんや。


察のとこへ行きたかったら、どうぞ好きにしたらエエ。


その代わり、自分らがした事も、


全部明白にセナアカンようになるやで。


先生は、イジメを知っていながら、


校長や教育委員会と一緒になって隠匿いんとくした。


自分らの保身の為に、イジメを認めんかった。


その恩恵を受けた加害者、こいつら三人を擁護した。


この罪は重いで。寄ってたかって、被害者を葬ったんやからな。


加害者がノンノンと生きながらえて、被害者が、



身体の傷と精神を犯されて苦痛の中で生きて来た。


これら全部明白になるんや。


どうぞ行って白状してくれたらエエわ。


時効や言うかも知れんけど、イジメに時効はないんや。


少なうても俺は許さん。


天に向こうて吐いたツバは自分に降りかかって来るんや。


被害者は、一生心の傷を負って生きていかなアカンのや。


法律が守ってくれたらエエけど、アンタラが隠し通した為に、


立件も出来んから、加害者のやり得になってるんや。


少年法なんてモンが有って、加害者擁護バッカリが先行して、


肝心の被害者を守る点に欠けてるんや。


法律が時代に合わせて整備出来てないからや。


日本の法律は、被害者を助ける肝心なとこが抜け落ちてるんや。


そやから俺は、法律に任しておけんから、


自分で制裁を加えようとしてるんや。


考え方は、一般論から言うたら間違うてるやろ、


そんな事分かってるけど、法律に任せられんかったら、


しょうない事や。


世の中には、六法全書を丸かじりしたような、


評論家や法律学者が居るけど、コンナンを法律バカ言うんや。


法律はタカダカ人間が社会を維持するために考えたモンヤ。


その時代に即応せんモンは改革していかなアカンのや。


六法全書が歩いてるようなオッサンは、周りが見えてないんや。


六法全書が全てやと思い込んでる法律バカなんや。


六法全書は聖書や経典と違うんや、よう覚えとけ」


 四人が項垂うなだれた。一夫が刀で川に追い立てる。


「大川と佐藤、先生も手伝うて、


前田の頭を水の中に押し込むんや。


抵抗が止むまで押さえつけるんや」


 大川と佐藤が後退あとずさりする。


「早うやれ! 俺にしたようにするだけや、簡単やろ。


やらんかったら、この刀で首撥ねさしてもらうわ。


俺は命捨てる覚悟でやってるんや、


口先だけでモノ言うてるんと違うんやで」


 覚悟したのか、大川と佐藤が前田に近付いた。


「そんな事したら、死んでしまう……」


 先生が呻うめいた。


                            ーつづくー


              (トラちゃんのスケッチ)


東本京史 「トラちゃん文庫」