東本京史 「トラちゃん文庫」


                                           (この小説はフィクションです)




                  ⑪  「命買います」  (19)



  

  鉄は、光明が見えた気がした。


この先どうしたら良いのか苦悩していただけに、


院長を味方に付けた事は、潜り込んだ甲斐があった。


出来るだけ聞き出して、外の龍蔵に伝えなアカン、


ハッキリ方針が固まった。


取り敢えずは、政たちの命が掛かっている、


捕らわれ者十二人の行く末だ。


四人は、海外旅行と称してフィリピンに連れて行くらしい。


内臓を取り去ったら用は無いと、


海に投げ入れ藻屑もくずにする気か。


後の八人はどうする気や? 政はどのグループに入ってるんや?


鉄に、焦りと不安が押し寄せた。


「院長、フィリピンへ連れて行かれたら、


内臓を全部売り払うて、海にでも投げ込んだら終わりですわ。


後の八人はドナイなりますんや?」


 モット情報が欲しい、鉄が酒を注いだ。


「今回は、四人ずつに分かれるんや。


一斑は薬の治療、もう一斑は手術言う事になってる」


 旨そうに、咽喉を鳴らす。


「薬の治療て、そら何ですの? 


今さら薬の治療してどうしますんや?」


 鉄は理解できない。


「薬言うても、治療の為や無いんや。


まだ日本で承認されてない新薬の人体実験や。


未承認の薬は数え切らんぐらいあるんや。


承認を得るには、人体の影響が大きな問題になるんや。


そのための人体実験や。


今回は四人に新薬を飲んでもらう。


効果と後遺症が主な目的や。


後の四人は、手術班やけど、これは内臓摘出の手術や。


今回は心臓と肝臓に疾患がある者がいてるんで、


腎臓を提供してもらおうと思てる。


提供して半月もしたら、元気に退院や」


 これで全員の役割が分かった。


「今までも臓器移植が済んだら、退院さしてましたんか?」


 鉄に気掛かりな事があった。


「そうや、皆んな元気に退院していったで。


そやけど、コナイダ南港で死体が上がったんを考えると、


無事には帰してもうてないみたいや。


ここを出た後、再度摘出手術を受けて、殺されたんやわ。


土門がドッカラカ医者を雇うて、手術さしたんやで。


内臓の無い死体や言うたやろ、


ワシはイッペンに内臓が空になるような手術はしたこと無いんや」


                          ーつづくー


            ( トラちゃんのスケッチ )



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