何か、今日、凹んでいる。いや、正確に言うと、昨日から凹んでいる。昨日、夜、大阪に入って、一人でホテルの部屋にいた。見るとも無く、ニュースを見ている。ベースボールの有名な監督が退任するニュースを永遠やっている。 それから、オリンピックでメダルをとった柔道の選手だった人が、自らの腹部に刃物を刺して自殺したニュース。 自殺した人のニュースは手話でも伝えられていた。 自害を現す手話が、そのまま切腹のジェスチュアーなのには驚いた。 両者は同じくらいの年代だ。 人の人生って、一体どこで明暗が分かれるのだろう?  深夜、何時だか分からない。 腹が減ったので、ホテルを出て、ウロウロと食べ物屋を捜した。少し歩いたところに、ポツンとなか卯があった。誰もいない深夜のなか卯。 人っ子一人いない。 本当に、あのなか卯なのだろうか? それは現実なのか? それとも幻想なのか? その判別もつかない。 そこで、親子丼セットを注文した。 窓に写る年老いた自分の姿。キャップを目深に被り、背中を丸めている。 未来の自分像か? 御飯がまともに喉を通らず、半分残した。 店を出て、テクテク帰りながら、ふと振り帰った。 なか卯は無かった。 ホテルまでの近道である近くの公園を横切った。 ホームレス達がそこら中に苦しそうに寝ている。 ホームレス達は、何故か寝返りを打たない。 寝返りどころか微動たりともしない。 公園を出るのに時間がかかる。 出口が見つからない。 もしかすると永遠にこの公園から出れなくて、僕も、寝返りを打たない睡眠者になってしまうのか? どれくらい歩いただろう? やっとのことで出口を見つけた。 そこには、何故か、入り口と書いてあった。どこへの入り口なのだろう? 現世へ入り口か? 公園を出たとこに出現したコンビニで粒アンパンと牛乳を買い、帰って部屋でぱくついた。 粒アンパンは期限切れのチョコレートの味がし、牛乳は科学肥料の香りがした。 隣りの部屋の女がやけに滑舌のいい大阪弁で何か頻りに捲くし立てている。どうやら、電話で恋愛相談をしているみたいだ。1時間、2時間、話は止まない。「うち、思うんやけど、それ、ぜったいに彼氏の方が悪いと思うでぇ~」 何度も何度も、同じことの繰り返し。 時折、床を踏み鳴らす音。 その音を合図に、外の夜景が、ポツポツと消えだし、やがて漆黒の闇に近づく。 枝豆君が昔、話してくれた、幽霊の話を思い出す。 その女は、隣りの部屋でやたら大きな声で何か話していたそうだ。 永遠と続く話し声。 あんまりうるさいので、業を煮やした枝豆君は、壁を叩き「うるせぇ!」と怒鳴った。 次の瞬間、「すみません」という掠れ声と共に、壁から女の顔がすーっと出てきたらしい。  眠れない。 明日は、8時出発だ。寝なきゃ。焦ると余計寝れない。 もう一度、シャワーを浴び、軽いストレッチをして、ベッドに横たわる。白いシーツのクリーニングの肌触りが心地良い。隣りの女はまだ喋っている。怒鳴ってみようか? 一瞬、そう思う。 ちょっと躊躇うが、思いきって怒鳴ってみることにした。壁に近づき、喋り声を確認して、深呼吸を1回。よしっと心の中に気合を入れて、壁を、ドンドン、1・2回叩き、「うるせぇ~」 強めの声で叫んだ。