高田文夫先生が監修している『笑芸人』という雑誌で、なべおさみさんと息子のなべやかんとグラビア撮影をした。夢の親子競演である。なべおさみさんは、かつて一世を風靡した「安田!」の監督コントの格好で、ノリノリだった。なべさんが息子のやかんをメガホンでどついてる様子を、学生芸人である僕が、学ランを着て冷やかに見ているという何だか訳の分からない写真である。その後、同じ『笑芸人』の取材で、上野鈴本演芸場に足を運んだ。鈴本は15年振りくらいである。入り口に立っただけで、芸人と老人と線香の香りがしてきて何だか懐かしい。中に入ると、お客さんは昨今の日本の人口構成の象徴であるかのように老人ばっかりである。どことなく死臭が漂って来そうな感じ…でも、このお爺ちゃんお婆ちゃん達がやたら元気で良く笑う。入れ歯をガタガタさせて、笑っているんだか泣いているんだか? 判別できないが、とにかく良く笑っている。「あのう、私ね、左足が悪いんだけど…」「きっと、歳なんですよ…」「右足は同い年なんだけど、悪くないよ…」ゲラゲラゲラ。嫁と姑の会話「幸子さん、わたしゃ、体のそこら中が痛いんだけど」「身体のどこですか? お母さん」「だから、そこら中だと言っとるじゃろうが」「じゃぁ、痛くないところは?」「あんたといたくない」ゲラゲラゲラ。「親孝行したくないのに、親がいる」ゲラゲラゲラ。中には毎日来ているのか、芸人のオチを先に言う人もいる。「私ね、去年の春に、ハブに噛まれましてね」と芸人が言うと、客の一人が「スプリング、ハブ、カムだろ? それを言うなら、スプリング、ハズ、カムだぞ!」と注意までされて、芸人も人生の大先輩達の前では、非常にやり難いのだ。