早川の部屋の水道が遂に止まった。止まった時、最初「外は日照り続きの、大旱魃かな?」と思ったらしい。そんな馬鹿な。春に旱魃などある訳がない。単なる料金の未払いなのだ。ライフラインとしては、電気、ガスの次、つまり最後に止められるのが水道である。早川は10年くらい前から僕の弟子(僕はそうは思っていないのだが)で、もともと名古屋の出身であるらしいのだが、怪しい。時々「南西の方はどっちですかね?」と訊き、そっちの空を見て涙ぐんでいる。聞く所によると、子供の頃は大変裕福で、3日に一回くらいの割合で誘拐されていたらしい。その度に一億程度の身代金を払っていたくらいの金持ちだったらしい。昨日、午後わざとらしく僕の部屋の前で倒れていた。「どうしたんだ?」と聞くと「口が乾いて仕方がありません。水を頂いて宜しいでしょうか?」と僕の一人芝居のアキトのパロディで、アキトと同じ台詞を言いやがる。つい吹き出してしまった。面白かったので水道代としてお小遣いを上げた。早川については書きたいことが山程あるので、またにしたい。