今日、何気に、『どん底』を読み返していた。そのほんの一説を、山口君に捧ぐ・・・・・ 結局その夜も、子供たちが待つ家には帰らなかった。店の外で彼女達と別れ、僕は独り自分の事務所に帰り、一晩中、最後まで彼女に説明できなかった、僕の不可解ともいえる複雑な思考―――生きるということは、同じ価値観に固執し、それを生涯を通じて貫き通すというよりもむしろ、それまでの自分の価値観や真実に疑問(問題意識)を持ち、新しい価値観や真実を模索し、それまでの自分と自分の生き方を相対化し、自分独自の文化を他の価値観に照らし合わせながら、自己解体を繰り返すことなのではあるまいか―――について考えていた。僕は基本的には無宗教者であり、無神論者であるが、宗教の価値観とは神が計画したものであり、価値観の本質である「事の善悪」は神が決定するものであるということを決定するのは人間であることくらいは理解している。