18日(月)何だか、久々の月曜の学校。4日・学園祭で休み。11日・広島ロケで出席できなかった。2週間も開くと、本当に久し振りのような気がする。間が開くと、英語の単語テストの範囲が、ずれ込んでしまって、微妙に分からなくなってしまう。しかし、そのハンデも克服し、今日は見事満点! 「あんたは、偉い!(小松政夫師風)」
 その2週間振りの英語の授業が終わった直後、早稲田漫画研究会のKさんが、僕に近づいて来た。彼女は、学園祭で僕の似顔絵を書いてくれた人物だ。その彼女が、「漫研で冊子を出したので、良かったら、どうぞ・・・・・・・私も、漫画書いていますので、良かったら読んで下さい・・・・・」とB5版の冊子を、恥ずかしそうに僕の前に差し出した。「Whisper」とタイトリングされたその冊子は、コピー用紙を数十枚綴じただけの手作りのもので、微かに印刷の臭いがした。
 「アリガトウ!」と僕は受け取り、誰もいない教室でそれを開いた。小林アベジというペンネームで書かれた16ページの物語・・・・・・・「Kaleidoscope」・・・・・・・毎週金曜日に、とある公園で弾き語りをすることがライフワークになっている大学生の隆一。彼の曲に耳を欹てる客は誰もいない。 いつも独りでギターをかき鳴らしている。 ある日、そこへ、ショートカットの女子高生、MEGUMIが偶然通りかかり、曲に足を止める。彼女は、暫く彼の曲に聞き入っている。
 やがて、二人は、彼の曲を通じて意志の疎通を図り、彼の曲を通じて意気投合する。 二人は、彼のバイクに乗り、ラーメンを食べに行こうとするが、途中、雨に見舞われ、ずぶ濡れになってしまう。困った二人は、仕方なく彼の下宿に行くことにする。 隆一は、女の子を部屋に入れるのは、今回が初めてである。(何と、美しい! 汚れなき世界!) MEGUMIがシャワーを浴び、濡れた衣服を乾かしている間、隆一は、コンビニに出かける。しかも、いらぬものまで買って、時間を延ばしているのだ。(どうだ? 諸君! このシチュエーション! 純粋だ! 実に純白だ! あり得ない! 信じられない! おじさんなら、既にもう飛びかかっている! あ! ダメ!ダメ!高校生だ!)
 ここからの会話は、作品のまま抜粋しよう。突然、MEGUMIが言う。「隆ちゃんは、今、幸せ?」 隆「え? う~ん、まぁまぁ・・・かな~」 ME「私はダメ。トゲトゲしちゃって、毎日が何だか痛いの・・・・・・・親の顔色うかがって、やりたいことも我慢して、優等生のフリをして・・・・・・・・まるで、生きながら、死んでるみたい!・・・・・・・・・・・だからかな~ どうしようもない気持ちが、ぐるぐる渦巻いて、行き場が無くて、身体の中で破裂しそうになるの・・・・・・・・・・こんな気持ち、分かるかな~」 すると、隆が「わかる気がするよ・・・・・・・毎日何に向かっていいのかわからなくて、それでも前に進まないと行けなくて、立ち止まったり、戻ったり、そんなあたり前の事がゆるされない。 でも、それが世間じゃ、あたり前で・・・・・・・・そんな、しみったれた世の中だから、人は何かに希望を託すんじゃないかな・・・・・・オレは、だから歌うのかもしれない・・・・・・・・そうだ! 君に見せたいものがある」 そう言って、隆は、押し入れからソフトボール大の黒い玉を出す。そのスイッチを押すと、何とそこから無限の模様が飛び出すのだ。辺り一面、同じ形は一つとして無い。そう、万華鏡の模様。その万華鏡の模様を眺めながら、隆が言う。「オレ、人も同じだと思うんだ。それぞれ、形が違って、独自の色があって・・・・・・・だから、みんな美しいんじゃないかな? って・・・・・・・だから、思うまま、その人らしく自由に生きることが、大切なんじゃないのかなって・・・・・・・・そう思うんだ・・・・・・・・」その後、二人は、万華鏡の模様の中で、静かに結ばれる――――どうだ? このセッション。うつくぴい! いいわね、いいわね、いい~わね~ ずん! 実に清廉だ! 信じられないユートピアだ! おじさんは、日頃あんまり漫画を読まない。読むのは、芳井一味の下司な4コマ漫画か票田のトラクターくらいのもんだ。
 しかし、こんな漫画の世界は初めてだ! まさに、ロマンティシズムの極み、ヒューマニズムの極み、ジュンアイシズムの頂点だ! 実に心が洗われる。 昔、読んだ「750CC(ナナハン)ライダー」以来の感動だった。いや~、素晴らしい! 兄さん、素晴らしい! 世間の垢に汚れた、この薄汚いゲーハーを、漂白してくれるような、洗剤チックな名作。
 やたら、一人でキラキラと感動していると、そこに何と今泉さんが現れた。急に、現実に引き戻された。そう言えば、今泉さんとも久々だった。先週、彼からはこんなメールをもらっていた。「突然、社会福祉の実習で、広島に行きます。 今」 この最後の「今」という文字の意味が分からなくて、今度会った時に聞こうと思っていたのだった。
 今日の今泉さんは、目の覚めるような青いスタジアムジャンパーを着ていた。それに圧倒されて、「今」の意味を聞くのをすっかり忘れていた。 それより、最近、僕は今泉さんにそっくりな人物を発見し、悦に入っていたのだ。 それは、相撲の高見盛関である。とにかくそっくりなのだ。最初見たときに、「あ、今泉さんが、相撲してる!」と叫んだくらいなのだ。 高見盛関を、10分の1くらいに縮小したのが今泉さんなのだ。
 その今泉さん、授業では、僕の直ぐ後ろに座った。今日は、広島から帰って来たばかりで疲れているのか、授業中は時々コックリコックリ、気持ち良さそうに船を漕いでいた。途中、突然、寝言で「 ほら! きれい! 」と言ったのだ。彼は、一体、どんな夢を見ていたのだろう? もしかして、Kaleidoscopeの夢? まさか、そんな偶然が・・・・・・・・・・・・授業が終わって、今泉さんに、質問したみた。「今泉さん、カレイドスコープって知ってます?」 すると、今泉さんは、顔をひょっとこのようにして「そう言えば、カレー食いたいっすね~」と一言。彼は、その後、学食へと駆けて行った。夜の黙に、教室や学食を照らすバックライト。それらの光りは、風に流され、幾重にもなり、一つのイルミネーションを構成する。 見ると、そのイルミネーションの中心に彼がいた。まるで万華鏡の模様が、彼を中心に描かれているようだ。僕は、思わず、今泉さんに声をかけた。「今」。今泉さんが一瞬振り返った。今泉さんはイルミネーションと共に輝いていた。その姿は、番組の最後で「また来週!」と振り返った、クレヨンしんちゃんのようだった。