日曜日の日本対ロシアの試合、視聴率が実質78%あったようだ。バラエティではまず考えられない数字である。スマップやさんまさんが束になってかかっても到底及ばない数字である。スポーツという誰でもが共感し、分かり易いアイテムを通じて、ナショナリスムの高揚と国威発揚を促し、メディアはまるでかつての大本営発表のようにエキセントリックかつセンセーショナルに報道する。メディアに乗り易い、メディアを微塵も疑うことを知らない自国の国民は、これらに盲目的に煽動され、我も我もと一心不乱に踊る。ここにこの国の国民性の畏怖と狂気が含有しているような気がする。僕は空恐ろしささえ感ずる。
 20世紀前半、まさにわが国はこのような全体主義・国家統制主義(totalitarianism)・権威主義・国粋主義・メディア崇拝によって戦争という絶対的な煽動と潮流に乗った。
  以上の事を踏まえて、そろそろ上原さんの質問に答えなければならないだろう。上原さんの問・・・・・・「日本人はどうして今頃有事法に躍起になっているのだろう? と問う友人の外国人に今回の有事法制についてどう説明すればいいでしょうか?」・・・・・・・・・外国人には確かに不思議に思えるでしょう。諸外国はどこの国でも以下のことが常識になっているからです・・・・・・・「国家が、自力で他国の違法行為に対して自己の国際法上の権利を守る」(自助論)。つまり「自分らの力で自分らの生命と財産を守る」ということは国際社会ではごく当たり前のことです。しかし、我が国ではこの事が、戦争歴史の悲劇などの影響もあって、これまで堂々と議論されていなかった。いやゆる一種のタブーだった。ご存知の通り、憲法に平和主義を謳い、軍隊を持つことを否認しているにも関わらず、自衛隊という明らかな軍隊を保有している矛盾性。憲法解釈の致命的な誤魔化しでしょう。子供が考えたって分かる明らかなまやかしです。恐らくこのことから外国の方には説明が必要だし、理解が困難でしょう。平和主義を貫くのなら一貫して軍隊(自衛隊)を持つべきではないし、国民の生命と財産を守るために保有するといのであれば自衛隊をきちんと軍隊として承認し、自衛隊に就業する人々に名誉と誇りを与えるべきです。ところが、どっち着かず。国際社会では非常識なこの矛盾性をそろそろ真剣に考えましょうというのが今回の議論の一つのコンテンツです。
 周知の通り、我が国の安全は米国によって守られていると言っても過言ではありません。我が国の自衛隊の活動は専守防衛のみで、外国での軍事行動を厳しく規制しています。専守防衛というのは、地域紛争の解決には武力を行使しないが、防衛は完璧にする。しかも本土内での防衛に限る。というのもです。しかし、それでいいのか? そんなことが果たして可能なのか? というのが今回の議論です。例えば、隣の家が強盗に攻撃を受けているのに、じっと見ているだけ。隣の住人が怪我をしたら手当てをしてやり、家が壊れたら修理してやる、と言ったもの。隣の人に「どうして強盗に襲われているときに、黙って見ているだけで、助けてくれなかったんですか?」と言われて「これが我が家のルールですから」と言うようなもの。これで国際社会で大人の国として認知されるでしょうか? もっと積極的に国際社会参加を考えるときではないだろうか? と言う議論が今回の有事法制関連3法案の議論です。先も申し上げましたが、我が国の安全は実質的には米国によって守られています。そのために巨額の出資をしています。しかし、米国はいざとなったとき本当に日本のことを守ってくれるでしょうか? 血を流そうとしない我が国に対して、他国の国民が自分らの血を流して本気になって守ってくれるでしょうか? 答えはNOです。米国は、自らの世界戦略と国民世論の枠組みでしか日本を守ろうとはしません。そこで日本は今後どうするべきか? 勿論、米国の世界戦略に肩入れする形で軍隊を承認し、軍事行動を認可することは如何なものでしょうか? 野党側(有事法制反対派)はこの点などを反対の論拠としています。とにかく今後の防衛ならびに憲法問題などは国民一人一人が真剣に考えていかなければならない時期が来たということでしょう。
 以上の理由で、外国では常識になっている防衛意識が日本でもそろそろ議題に上がって来たという現在です。
 ところで、冒頭の国民総サッカー化、いわゆるサッカーファシズムであるが、国民全体がサッカーを通じた国威発揚に邁進している中、月曜日と火曜日、例の今泉さんに学校の授業で会った。僕が、今泉さんに「今泉さん! 日本とロシア戦、観ました?」と聞くと、今泉さんから返って来た答えは「あの時間、マッスルエクササイズを買いに行ってて観れませんでした! とにかく安かったんですよ!」である。す、凄い。今泉さんにとって、W杯日本戦よりマッスルエクササイズの方が優先的なのだ。ここに現代全体主義の崩壊を見た。さすがだ! いいぞ! 今泉! 日本はまだまだ大丈夫だ。日本全体が例え間違ったファシズムに突っ走ろうとしたときでも、今泉さんはマッスルエクササイズを買うのだ。しかも安いやつだ。まさに、イマイズミズム。masclexercisenism対totalitarianism。字数とか、どこか似ている。そうだ、日本が危険な侵略戦争なんかに突っ走ろうとした時、マッスルエクササイズを買おう。そして、叫ぼう。「ハイル、今泉! ブラボー、マッスル」実に平和だ。平和の象徴だ。マッスルエクササイズ。 ところで、マッスルエクササイズとはどんなものか? と思い、今泉さんに聞いてみた。「今泉さん、そのマッスルエクササイズって一体何なんですか?」すると、今泉さんは、年老いたネズミのような顔を僕に向け、「さぁ、よく分かんないんですよ~」 そう言うと、今泉さんは、遠く星空を、まるで捕まった宇宙人のように眺めたのであった。