万景峰号を見た! 日本という国の有り方を知るのに、適切なテクストであると判断したからである。 勿論、万景峰号だけではなく、それらを取り巻く環境への視座である。 25日(月)午前8時前くらいから湾内に姿を見せた万景峰号、数隻の海上保安庁の保安艇に曳航され、ゆっくり着岸した。物凄い数の警察官、報道陣、政治団体等、会場は人人人でごったがえしていた。政治団体のバスからの怒号、警察のサイレン、各シュプレッヒコール。会場は、どこを摘んでもピリピリ緊張ムード、そして騒然とした雰囲気である。国同士の歴史の軋轢、人々の人種を超えた利益の綱引き、矜持、意地・・・・・・様々な形でぶつかり合う人間感情とあらゆる国益の駆け引きの圧力で、窒息しそうになる空気。これが国と国の、人種と人種の対峙なのだ。
 勿論、僕ら非関係者は埠頭には入れないので、僕らは、佐渡汽船側の埠頭から見た。それでも、船までは100mくらいの距離である。
 船の第1印象は、地味、そして意外に小さい。北朝鮮にとっては、豪華貨客船なのだそうだが、万景峰号の向こう側に着岸している日本海カーフェリーの約半分くらいである。そこに、日朝間の経済の格差や有り方の違いを感ずる(どちらが正解かは一概には言えない)。
 これまでこの船が日本と北朝鮮間の定期船だったことや、日朝間に年間約1300隻の船が往復していることなど、今回の拉致問題などがクローズアップされるまでは、僕ら一般的国民は知らなかった。そして、様々な事(犯罪行為等)が憶測されているが、この船が北朝鮮の経済産業を支え、その象徴となったことはまぎれも無い事実である。
 これまで、日本政府がそれらの船に安全性検査(PSC)を十分に行わなかったことを、マスコミは今頃になって追求しているが、様々な政治的駆け引きや歴史的背景、その他様々な政治的圧力でできなかった、あるいはいい加減にやっていたことなどは推測するに容易い。それらが日本政府のエッセンシャルな構成要素である。もしこれまでPSCを厳格に行っておれば、今回の万景峰号のような不祥事は起こらなかった。
 しかし、これからそれらを徹底したとしても、北朝鮮側が厳格に国際条約を守る国際モラルがあるのだろうか? また、守る経済力があるのだろうか? 甚だ疑問である。余り窮屈で無理な要求を突き付ければ、北朝鮮を悪戯に刺激することになり、窮地に追い詰めることになる。加えて、国際的に、道義的・人道的な問題をも問われる。だからと言って、国際条約、つまりルールの厳守は最も重要なファクターである。しかし、ルールをルールとして認識していない国に対して、ルールの理解を促し、遵守させていかせることの困難さ。今回は、人と人、国と国の政治的利害調整がいかに難しいかを、ひしひしと感じさせられた事案である。
 とにもかくにも、日本から拉致された被害者、あるいはその家族が北朝鮮に残存しているのは、純然たる事実である。これらの早期解決のため、様々な外交手段を尽くすことが日本政府に課せられた使命である。今更、声を大にして言うことでもないが、国家の重責・役割は、主権の維持である。畢竟、国家の主権たる国民の財産と生命を守ること。現在、主権の侵害は、内政干渉であり、同時に国際社会では違法とされる行為である。主権の侵害、その糾弾と解決のための外交カードに、この万景峰号の事実関係を使うことも一考である。明日から、6カ国協議、そして2カ国協議。日本の外交手腕と、北朝鮮、アメリカ等の見解や動きには、日本国民として注視して行く必要を常に実感する。