20日(金)今年最後の補講が終わった。やがて教室には誰もいなくなり、ふと気付くと、後期の資料の整理をしていた僕と今泉さんだけになった。今泉さんは、レジュメから目を離し、もうすっかり暗くなった窓の外をぼんやり眺めた。そして、一言「人は、肉体と心と霊でできているんです・・・・・」と幻想的に言った。瞬間、瞳がキラリと光り、横顔はまるで革命に勝利した農民のようだった。見たところ、いつもの今泉さんではない。完全に変身している。何か、聖なるものが乗り移っている。まるでリトル・キリスト。エイジアン・キリスト。
 リトル・キリストは、僕に「東さん、今、こうやって耳を澄ますと何が聞こえますか?」と耳に手をあてた。「耳鳴りが聞こえます」と正直に答えると。「え? 東さん、耳鳴りがするんですか?」「ええ、数年前から、事故で・・・・・」と説明すると、彼は腕を組んで、目を閉じ、何か考え事をした。暫くして、カッと目を見開き、「分かりました。僕が直してしんぜよう!」と占師のように言った。聞く所によると、彼は、「祈り」によって、実父の耳鳴りを一週間で治癒させたのだそうだ。他に、彼が祈ったら、金歯が生えてきた人もいるらしい。何故、金歯なのか分からないが、とにかく金歯が生えて来たのだそうだ。意味が分からない。 僕が「髪の毛、生えて来ますかね?」と聞くと、「はい! 何でも生えて来ます! 神ですから、髪は得意です!」とオヤジギャグ炸裂! 「できれば、金髪が生えて来るといいな~」と僕が言うと、「金髪美人、おおいに結構!」と訳の分からないことをのたまい、「ハレルヤ、ハレルヤ、時々クモリヤ・・・・・・・・・」と独り言を言い出した。
 彼は、ああ見えてもれっきとしたペンテコステの教会員である。彼が、いつか「僕、実はペンテコステなんです!」とコンフェスしたので、わざと「え? ペンでこすって!ですか?」とボケると「違いますよ! ペンテコステですよ!」と今泉さん! 尚も、「え? パンナコッタですか?」とぼけると「違いますよ! ペンテコステですよ!」 またまた「え? ドンタコスですか?」ととぼけると「違いますよ! コンテペストですよ!」と、リトル・キリストは名前を間違えていた。
 ペンテコステとは、ユダヤ教では、過越祭の50日後の7週節。 キリスト教では、聖霊が降りてきたという聖霊降臨祭のことである。
 彼はそれでも、94年にバプテスマ(洗礼)を受けた敬虔なクリスチャンである。 その祈る横顔を見ていたら、もしかしたら、本当にもしかしたら、彼は、平成のキリストなのかも知れないと思えた。馬小屋で生まれたのではなく、馬から生まれたキリスト―――
 「所で、東さん、サンタクロースは何で、サンタクロースと言うか知っていますか?」そう、リトル・キリストが真面目に聞くので「ええ! 4世紀、小アジア、ミュラの司教セント・ニコラウスの名前が、オランダ語訛りで、サンタ・クロースになったんですよね!」 すると、彼は、「え? そうだったんですか?」とビックリした様子。「え? 違いましたっけね?」と僕が聞き返すと、「え、ええ、えええ、そ、そうですよ・・・・・」とおでこにうっすら汗をかいていた。どことなく憎めないリトル・キリスト。 彼は、実際サンタクロースをどう思っていたんだろう? 大変、気になるところだ。
 その後、リトル・キリストと、馬場の「お化け食堂」という僕の高校の後輩がやっている居酒屋に行った。彼は、そこでチキン何番を頬張りながら、盛んにサタンの話をした。彼の話によると、サタンは世界中に君臨していて、何でも、中隊長と小隊長がいて、まるで軍隊のような構成になっているらしい。アダムとイブに木の実を食べさせたのもサタンの仕業らしい。正確に言うと、サタンが蛇に命令したのだという。彼の話はどれも実に面白いのだ。何故かと言うと、聞く側の創造力を掻き立てられるからだ。その後、様々な話しになった。宗教観から恋愛観、人生観、思想観、未来観などなど・・・・・・・・
 これはリアルな話しであるが・・・・・・・・・因みに、彼がとっている新聞は、○教新聞と○旗とディリ―読売であるらしい。都下の一軒家に住み、80年代のアイドルと全日本プロレスをこよなく愛し、公安の動きに敏感な年齢不詳。今、職場でいけ好かない看護士(女性)がいるらしく、悪戦苦闘の日々らしい。早稲田の一枚看板、今泉! 頑張れ! 今泉! 22日はとうとう、今泉氏主宰の忘年会が開催される。果たしてどんな会になるか、今からハラハラドキドキである。