そう言えば、春。 早川の姿が見えない。春になると、いつもあいつ行方が分からなくなる、そう、思考の行方も行方不明だ・・・・・・・・そんな春、突然、事務所の隣りに住んでいる普段あまり交流の無い医者に、「暫く家を留守にするので、花を預かってもらえませんか?」と頼まれた。 あまりにも唐突でちょっと戸惑ったが、預かることにした。 それが、10鉢くらいの鉢植え。 「3日に1回くらいは水をお願いします」と言って医者はとっとと出ていった。 後に残された鉢の数々。 やつらは僕を不安そうに見つめていた。 「花なんて飼ったことない」 きっと、そう思ったことが花に伝わったのだろう。 これもし枯らしたらやっぱ僕の責任なんだろうな? 「ザ・ジャッジ」に聞いてみたい感じだ。 でも、枯らして、医者のリアクションを見てみるのもいいかも・・・・・・その医者、医者を辞めて、今春から音楽大学に通うのだそうだ。 それぞれの春。 それから、今日、突然、これまで音信不通だった6年振りくらいの旧友から電話があり、「今度、名古屋に店をOPすることになったので、花を出してくれないか?」と言う。 また、花か・・・・・・・反射的に「あぁ、いいよ!」と安請け合いしたが、後でようく考えてみたら「何で、そんな時だけ連絡が来るのだろう? そんなもんかな? 人間なんて・・・・・」と妙に達観していた僕。 それぞれの春。 それから、知合いの友人の愛人が事故で下半身不随の障害者になったらしい。「どうするんだ?」と聞いたら「勿論、これからも付き合って行く!」ときっぱり。 普段、いい加減な奴だったけど、案外骨があっていい奴だったんだな、とちょっと感動。 僕がもしそういう立場になったらどうするだろう? と考えながら、医者が残していった鉢植えの花を見ていた。 それぞれの春。