あの高田文夫さんが編集長をしている『笑芸人』(百夜書房)という雑誌の中で、僕はライブレポートを担当している。毎回様々な催しものを観て、レポートするのだ。これまで、誰も観ないような演劇から浅草ストリップまで、ありとあらゆる種類の出し物を観た。今回指定された出し物は凄かった。上野にある世界傑作劇場という映画館の2本立ての映画なのだが、タイトルが「兄貴と俺」と「のんけ2」。そう、ホモセクシャルの方々専門の映画なのだ。これには参った。映画もそうだが、会場の雰囲気に圧倒された。映画館に入ってまず驚いたのが、席はガラガラなのに誰も座っていない。お客さん達は、周りにずらりと立って、映画など観ていない。どうやら、皆、それぞれお互いに愛の目線を送り合い、好みのパートナーを探しているようである。僕をじっとみつめて来る男性もいた。髪を七三にした50歳前後の青白い男である。僕と目線が合った時、彼はにやりと笑った。その視線に耐えられず、目を伏せながら客席に座った。見ると、直ぐ前の席で、いかつい男性と普通の男性が濃密に抱き合っていた。横を見ても、前を見ても、全く目のやり場に困る。仕方無いので、映画のスクリーンをずっと凝視していた。「兄貴と俺」という映画は、刑務所で知合う男性同士の物語。「のんけ2」というのは、ある男性漫才師の物語で、相方を好きになったのだが告白できない。その相方には女性の恋人がいて漫才で賞を取ったら結婚する約束になっている。男性同士の片思いの切ない物語だった。これにはちょっと泣けた。同性愛を決して否定はしないが、こうして目の当たりにするとやはり驚きの連続である。