〈幸食研究所ブログより転載〉
ある新聞社にカズが養護学校の施設に1人で来て、度々障害者の子供たちと会っているとの情報が入ってきた。
通常こういう施設に有名人が来る場合はマスコミに事前に知らされていて、カメラと一緒にパフォーマンスとしてするものなので記者もこの情報には半信半疑であるのと、もしかしたらカズ自身に何かの秘密があるのでは?とスクープの可能性も感じながら情報の養護学校に向かった。
3日ほど張り込んだだろうか、場違いな高級スポーツカーが養護学校に横付けされた。中から出てきたのはカズこと三浦知良だった。
記者はかたずをのんでカズが何を目的に来ているのか見守っていた。
もちろん他にマスコミの姿は見当たらない。
やがてジャージに着替えたカズが障害者の子供たちとサッカーボールを持って中庭に出てきた。
子供たちの中には満足に歩けないような重度の障害がある子もいた。
しかしその子供たちの目は真剣そのもので倒れても起き上がっては泥だらけになってボールを追いかけている。
いつしか記者のカメラはカズではなく障害者の子供たちに向けられていた。
やがて時間が過ぎてカズと子供たちは施設の中に入っていった。
着替えを終え施設を出ようとするカズに子供たちは全員で手を振っている。
そしてカズはこう言った
「今日もみんなありがとー!」
記者は耳を疑った。
なぜならカズの方がお礼を言っていたからだ。
高級スポーツカーに乗り込み施設を出ようとするカズに急いで記者は駆け寄って少し意地悪な口調でこう質問してみた
「カズさん○×新聞ですけど、こういう施設にきて子供たちとサッカーをしてあげているというのはやはり好感度とか人気取りなんでしょうか?」
突然記者が飛び出してきたので少し驚きながらもカズはこう答えた。
「僕が彼らに何かをしてあげてるって?逆に僕が何かをもらっているようには見えなかったかい?」
そう言い残してカズはスポーツカーを走らせて帰って行った。記者は職業柄意地悪な質問をした事をすぐに後悔する事になった。
なぜなら自分が撮影したカメラにはカズの姿は殆ど映っておらず、その殆どが泥だらけになりながらも、倒れながらもボールに向かっていく障害者の子供たちの姿だったのだから。
【1999年読売新聞投書欄より抜粋】
ある日早朝の公園でミニチュアダックスを散歩させていたら黒と鼠色のブチのお世辞でも綺麗とは言えない雑種の犬がこちらに猛然とダッシュしてきた。
私は危険を感じたのでミニチュアダックスを抱き上げた。
その雑種の顔を見るととても穏やかな表情で尻尾をふってこちらを見ている。
どうやら遊びたかっただけのようだ。
ちょっと安心したのも束の間遠くの方から
「オーイ!カポネ!だめじゃないか!」
と大声で怒鳴りながらトレーニングウェアでこちらに走ってくる人物が、よくみるとカズこと三浦知良じゃないか。
カズは「どうもすみませんリードを振り払って走っていってしまったもので」
と恐縮しきりだったので
「いいですよ、でもこの犬はカズさんの犬じゃないですよね?どなたの犬ですか?」
と聞いてみた。
なぜなら雑種の日本犬だったからだ。
するとカズは笑顔でさらりとこう答えた
「僕の犬です、カポネ、5歳のオスです」
私は失礼だとは思ったが思わず一言言ってしまった。
「えーカズさんが雑種飼ってるなんて信じられない」
するとカズは大笑いしながらこう答えた。
「みんな同じこと言いますね、そう、ただの雑種です、保健所から貰ってきました。
僕にはそこにいたすべての捨て犬を家族にはできないけど」
そしてリードを手に取ると
「どうもすいませんでした、カポネいくぞ!」
と言って走って行ってしまいました。
カズさんとカポネが去ったあとほんのり春の風が吹いていました。
そう、命にブランドや血統書なんて関係ない。人一人が出来ることは限られますが、大勢の人がカズさんのような人だったらもっと穏やかな世の中になるのかもしれませんね。
49才 港区 主婦
とある小児病棟に慰問に行ったカズ。
普段湿りがちな病院の子供達や看護婦達に大歓迎を受け、リフティングやらを披露して大歓声を受けている。
ふとした拍子にカズがあきらかにその輪に加わらないスキンヘッドの女の子を見つけた、カズはその子に話しかけたがサッカーに興味が無いと言い残し車椅子で病室に去って行ってしまった。
看護婦に聞くとその子は白血病で抗ガン剤の副作用から髪の毛や眉毛が抜け落ちて、それから誰にも心を開かなくなったのだと言う、しかしカズは見逃さなかった。
その子が去ってゆくとき小さな紙切れのようなものを落として行くのを、カズがその紙切れを見るとこう書いてあった
「試合いつもテレビで見ています頑張ってください」
カズは看護婦に一枚の色紙を託した、そこにはこう書いてあった。
「絶対に何があってもあきらめない」
次の試合、チームメイトやサポーターから大爆笑や野次がおこっていた、新聞記者はこぞってこう書いた
「キングご乱心」
そこにはクリクリ坊主頭でピッチに立つカズの姿があったのだ。
「僕の夢は日本をワールドカップに連れてゆくことです!!」
最年長プロとしての発言。
これに対して多くの批判や罵詈雑言がカズに叩きつけられた。
私自身も少なからず、いささかあきらめの悪い妄想ではないかと感じたりもした。
しかし三浦知良という男は、私のような冷め切った日本人には想像もつかない大きな男だった。
「お金をもらうからプロじゃない。どんなときでも手を抜かず、全力で戦うからプロなんだ」
「ブラジルでは貧しくて、ブラジル人なのに一生スタジアムに来れない人が沢山いるんだ。ブラジル人にとっては悲劇だよ」
「智星わかるかい?ブラジルで俺は試合前に必ずスタジアム全体を見る、この中でいったい何人の人達が一生に一回だけの試合を見にきたんだろうと思うんだ」
「うまくは言えないけれどこれが俺のサッカー人生だ、智星が本当にサッカーを愛しているならとことんまで愛してやれ。智星のプレーで全然違う国の人々を熱狂させてあげるんだよ、それは本当に素晴らしい経験なんだよ」
「常に何かに挑戦していれば輝きは失われない。挑戦してその結果が成功だとか、失敗だとかではない。挑戦したときがもう成功といえるのではないだろうか」
そう、三浦知良とは、サッカーを通して人に夢と希望、そしてあきらめない気持ちがどれだけ輝きを放ち、奇跡を生むのかと教えてくれているのです。
常に誰かの為に、何かの為に、そして日本の為に、自分のサッカー人生を通して与えようとしてくれているのです。
何もしなくても人の一生は過ぎ、やがて死を迎えます。
何もしない一生、自分に出来る事から何かをしていく人生。
どちらが良いかなど聞くまでもない。
人生とはたったその二本の道の歩き方を選ぶ事なのかも知れません。
そうキングカズは教えてくれているようだ。
「ちょっと批判されるぐらい、宇宙規模でいったら果てしなく小さいことですからね。自分の悩みなんて、宇宙規模で考えればものすごく小さい」
私達には、ほんの少しの勇気と、ともにある宇宙規模の世界観が必要なのなのですね。
幸食研究所 ひふみ塾
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