「神社」とは、

神道の神々を祀るため

設けられた建物、または施設の総称。

(國學院大學日本文化研究所編

『縮刷版 神道事典』弘文堂 1999 3P)

 

「立地」とは、

人間の行為を営む場所、

特に産業を営む場所を選択して定めること。

(上野和彦・槙真智子・中村康子編著

『地理学概論』朝倉書店 2007 8P)

 

「神社立地論」とは、

なぜそこが神様を祀るのに適しているのか、

それがその地域においてどう影響しているのか、

考察・推論していくこと。

(持論)

 

立地論は産業立地が主な対象であり、

生産・輸送・消費各者の移動経費の

合理性を求めることが目的となりやすい。

 

宗教施設に関して、

欧米のコミュニティにおいては、

キリスト教の教会を街の中心に置くことが多く、

立地論における合理性とも適うケースが多く、

「宗教地理学」の学問領域を

形成しやすい土壌にあるといえる。

 

一方、日本のコミュニティ、

特に神社の位置関係においては、

町外れ、あるいは険しい場所に

立地していることが多く、

立地論とは反しているかのように思われる。

また、寺院立地の変遷によって

氏子・檀家が時代・地域ごとで

複雑化してしまっていること、

神社も中近世~近代にかけて

勧請・統廃合を繰り返してきていることから、

現在の神社立地が古来からの

信仰を継承してきているかが

検証できないことがほとんどであるため、

立地論はおろか、

地理学的な観点からのアプローチ自体が

難しい状況にあるといえる。

 

そのような中でも、
建築学・上田篤をはじめ、

建築学分野を中心に、景観評価における

神社の役割についての研究も

細々ながら続けられてきてもいる。

 

その中で概ねまとめられているのは、

「ケ・ハレ」の地表的表れとして、

集落と神社の関係性が

立ち現れているということ。

 

普段は町外れの杜に隠れているが、

祭の時には提灯が吊るされたり、

屋台が建ったり、

盆踊りやら神輿の練り歩きやらが

行われたりして、

その地域の中心として現れてくる。

(地域によって慣習は異なる)

 

欧米の宗教地理とは異なる形で

日本の宗教地理は展開してきており、

明確には論じにくいケースが多いが、

着目する意義が皆無ではないとも思う。

 

神社の立地に着目することは、

日本の地理を理解する上での

一つのインターフェースになるのではないか、

と思っている。

(松井圭介(2003)『日本の宗教空間』古今書院、

上田篤・上田正昭(2001)「社叢学の可能性」上田篤・上田正昭編『鎮守の森は甦る』思文閣出版、

および持論)

 

 

以下に先行関連研究の例を挙げる。

 

↓建築学分野

・景観モデル

樋口忠彦(1993)『日本の景観 ふるさとの原型』ちくま学芸文庫 176-186p

日本の景観を、盆地(秋津洲やまと型・八葉蓮華型)、谷(水分神社型・隠国型)、山の辺(蔵風得水型・神奈備山型・国見山型)に分類。日本の景観構成において、神社立地を基点としているであろうケースが多く窺える。

 

明治大学工学部建築学科神代研究室(1977)『日本のコミュニティその1』鹿島出版会 9-15p

景山春樹『神体山』(学生社、1971)を基に、田宮・里宮・奥宮の信仰軸と、垂直に交わる集落・道路の経済軸との関係からなる、日本のコミュニティ空間を抽象化、および欧米のコミュニティとの比較。

 

宇杉和夫(2003)『日本の空間認識と景観構成―ランドスケープとスペースオロジー』古今書院 460P

茨城県の岬地形における、神社立地を基点とした空間概念図。

他地域の様々な地形についても、上記書籍および CiNii にて参照できる。

 

 

・周辺地形との関係性

上田篤(1996)『日本の都市は海からつくられた』中公新書 59p、128p

縄文海進期地形と遺跡・神社の分布。

 

秋本周・堀繁(2004)「山形県村山盆地における山を信仰対象とする集落としない集落との、山と集落との空間的関係の相違」『ランドスケープ研究』67-5 727-730p

山を信仰の対象とする集落としない集落の位置関係、山姿。

 

是澤紀子・堀越哲美(2004)「景観としての神社の立地にみる信仰の場と自然環境の関わり:京都府花折断層周辺の神社を事例として」『都市計画論文集』38-2 145-150p

断層地形と神社立地の関係性。

 

 

・境内の空間構成

増井正哉(1987)「鎮守の森の立地類型と周辺環境の変容に関する考察:南山城地区の神社とその集落をとして」『学術講演梗概集』1987 397-398p

神社と集落との位置関係。

 

浦崎真一(2008)「奈良県の旧県社における不整形空間構成と立地環境の関係に関する研究」『ランドスケープ研究』71-5 779-784p

神社立地模式図と神社境内の参道から社殿に至る動線の形。

 

細田浩(1995)「都市における社寺林の地生態学的研究:大宮氷川神社社叢を例として」『法政地理』23 19-33p

神社境内の湿度、高木層の植生分布。

 

 

・神社の向き

 

渡辺久雄(1979)「神社立地の歴史地理学的検討の試み:尼崎市域の神社予備調査を実施して」『地域史研究:尼崎市立地域研究資料館紀要』8-3 47-63p

兵庫県の住吉神社。

 

法政大学工学部建築学科陣内研究室(1999)『東京郊外の地理学 日常的な風景から歴史を読む』69p

杉並区。

 

後藤隆太郎・中岡義介(2002)「集住地の神社からみた佐賀低平地における集住地特性」『日本建築学会計画系論文集』551 197-203p

佐賀低平地における、神社の遥拝の向き、境内の空間構成。

 

 

↓神道学・地理学分野

 

岡田荘司・加瀬直弥編(2007)『現代・神社の信仰分布 ーその歴史的経緯を考えるためにー』文部科学省21世紀COEプログラム國學院大學「神道と日本文化の国学的研究発信の拠点形成」62~63P

八幡・伊勢・天神・稲荷・熊野・諏訪・祇園・白山・日吉・山神・十二各社の社名分布。

 

松井圭介(2003)『日本の宗教空間』古今書院 40-71p

茨城県の笠間稲荷神社の、講社、篤信崇敬者、産物献納者、分霊勧請者の、信仰圏内における分布傾向。

 

長野覺(1995)「日本の山岳信仰と自然保護」『法政地理』23 3-18p

英彦山の結界と自然林の分布との関係。

 

岩鼻通明(1981)「観光地化にともなう山岳宗教集落戸隠の変貌」『人文地理』33-5 74-88p

戸隠中社集落における、旅館・民宿、飲食店・土産物店、竹細工工業の分布。

 

 

・人文主義地理学的史料読解

岩鼻通明(2003)『出羽三山信仰の圏構造』岩田書院 198-214p

湯殿月山羽黒三山一枚絵図における、左右上下の対称性、宇宙軸―コスモロジーを想定。

 

岩鼻通明(2003)『出羽三山信仰の圏構造』岩田書院 159-163p

旅日記から、社寺参詣における円環的なルートの比定。