どうも、こんにちは&こんばんは!
お久しぶりになっちゃいました、ひどうです。

本誌発売前日にようやく書き上がりました。
いや、これはこれでそんなに日にちはかかってないんです。ひどう的には。でも一週間はかかってますわ…。遅筆だねぇ、ホントに。
これの前に書きかけていたズルズルと延びに延びている新年会の話が悪いんです。結局まだ書き上げてないし。ラストにたどり着かないから、先にこっちを書いたという訳です。

まぁ、とりあえず妄想ダラダラですが、読んでやってくださいまし。


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最上さんの雰囲気がガラリと変わり、彼女が何かの役に入ったことは分かった。最高神官という役どころらしい。
最高神官として、俺、コーン王子の呪いを解いてくれるつもりらしい。
彼女なりに俺のために一生懸命方法を考えてくれているのも分かる。
でも…それは……。
敦賀蓮との約束を守りながら、それでいて俺の呪いを解く方法。
「キョーコちゃん、俺、お芝居のキスは受け取らないから」
冷たいようだが、俺は彼女の唇の前に手のひらを向けてさえぎった。
溢れる涙を抑えることもしないで、最上さんは役から戻って来た。さえぎられてビックリしているようで、目を見開いている。
「ねぇ、もしこれが敦賀さんにお願いされてたら、役者の心の法則なんか使わないんだろうね」
俺の声音に冷たいものを感じるのか、最上さんはピクリと小さく体を震わせ、更にその目を見開いた。
それが肯定という答えと捉え、俺は泣き笑いの表情をしていた。
蓮もコーンも久遠も、すべて俺なのに…。
どうしても彼女が敦賀蓮との約束にこだわることが許せない。
そう…俺は敦賀蓮に嫉妬しているんだ。
「そんなにあいつが大切なんだ」
「あいつって、敦賀さんのこと知らないのにそんな呼び方しないで」
「俺にとって俺以外はすべてあいつだから」
「コーン…?」
「あいつ、キョーコちゃんの何?俺よりも大事なの?」
「どっちが、なんてないよ。どちらも大切なんだから」
「俺、キョーコちゃんのこと愛してるって言ったよね」
「私だってコーンのこと好きよ。でも…」
最上さんはくるりと俺に背を向け、欄干の向こうに見える景色へ目を移した。
「…同じ好きでも…敦賀さんとコーンは違うのよ…」
「ふーん。俺はlikeであいつはloveってこと?」
最上さんはひとつ小さく息を吐いて、わずかに首を縦に振った。
彼女の想い人が敦賀蓮だったとは。まったくそんな素振りを見せず、俺は全然気がつかなかった。
そんなことを考えながら、俺は思ったより冷静な自分に驚く。
嬉しいはずなのに…敦賀蓮も俺なのに素直に喜べないのはどうしてだろう。
敦賀蓮としてなら破顔し、飛び上がって喜んだかもしれない。
でも今は…。
その敦賀蓮にすら憎しみを感じる。
ただ一途に彼女に想われているというだけで。
「キョーコちゃんにそんなに想われているあいつが羨ましいね。それを通り越して憎しみさえ覚えるよ」
俺に背中を向けている最上さんの表情は分からないけど、おそらく可愛らしく頬を染めているんだろう。敦賀蓮を好きだと認めたことで。
あいつが羨ましくてたまらない。
「いっそあいつの存在を消してやろうかと思うよ」
俺の物騒な物言いに最上さんは驚愕した様子で体ごと振り向いた。
「コーン!」
先ほどの余韻など欠片もなく、真っ青な顔で俺を睨んできた。
「俺にはそんなの簡単に出来るからね」
俺は一歩また一歩と最上さんを欄干へ追い詰める。
「敦賀さんが…消えちゃう?」
「そしたら俺だけ見てくれる?」
すっかり欄干に背中を預ける形になった彼女の両脇に手をつき囲うように見下ろした。
「やだ!敦賀さんを消さないで!」
その否定のやだというのはどちらの言葉に対してなのだろう。心臓がチクリと痛む。
「コーンの呪いは解いてあげるから、敦賀さんは…」
最上さんは俺に許しを請うようにすがりついてきた。俺のシャツをギュッと握りしめる手が白くなるまで。柔らかな栗色の髪が小刻みに震えている。
どれだけ彼女の中の敦賀蓮の存在が大きいのかが伺える。
「それって交換条件?」
きっと俺は今すごく意地悪な顔をしているんだろう。最上さんを追いつめてまで彼女に俺を選んで欲しい。
「どうしてそんな意地悪なことを言うの?コーンも敦賀さんも私にとって大切な人なのよ。どっちなんて選べないよ」
それに…と最上さんは続けた。
「敦賀さんは許してくれるわ。理由があれば怒っててもちゃんと許してくれる。そういう大人の人だもの」
だから、と最上さんは俺の頬を両手で挟んで引き寄せた。
精一杯の笑顔で彼女は俺を見つめていた。それなのに、その大きな瞳からはとめどなく涙が溢れ落ちて、その美しい輝きが余計に俺の醜い心をあぶり出すように照らす。
「コーン…目を閉じて?恥ずかしくてキス出来ないよ」
そう言いながら、彼女の笑顔が徐々に曇ってくる。そしてとうとうしゃくり上げるように泣き始めてしまった。
本気で最上さんを泣かせてしまった。俺の訳の分からない自分でもどうしようもない醜い嫉妬で。
俺はどれだけ酷いことを彼女にしてしまったのか。
最上さんの流す涙の雫が俺の良心にひとつひとつ突き刺さる。
「ごめん、ごめんね。こんなに追いつめて泣かせるつもりはなかったんだ」
俺はポロポロと大粒の涙を流し続ける最上さんを胸に壊れるほど強く抱きしめた。
もうこれ以上彼女に隠し通すことは出来なかった。こんなに泣かせてこんなに悲しい顔をさせるつもりじゃなかった。
ただ、本当の俺を見てほしかっただけで…。
「コーン…」
「最上さんには本当の俺を知って欲しい」
俺は胸に抱いていた最上さんを名残惜しげに自分の体から離した。温かな彼女のぬくもりをぬぐいさるように俺たちの間を一陣の風が吹き抜けていった。
「え?最上さんって…」
彼女の本名を呼んだせいで怪訝な表情をされた。
彼女を芸名の京子ではなく本名を呼ぶ人は数が限られているから。しかも最上さんと呼べば彼女の中では自然と敦賀蓮につながる。
俺は未だ頬に残る彼女の涙を愛しげに指で拭う。
「隠していてごめんね。敦賀蓮もコーンも俺なんだ」
「コーンってこと?」
俺はためらいながら首を小さく横に振った。正確にはコーンだけどコーンじゃない。それにまだ久遠の名は出すべきじゃない。
最上さんは顔中をハテナマークだらけにして俺の顔を穴のあくほど見つめている。
「今はまだ俺の本名は明かせないけど、今、最上さんの目の前にいるのが正真正銘の俺だから」
あの夏の日、京都の緑溢れる森の中で出会った幼い少女。
俺を俺として見てくれる四つ年下の女の子。彼女と一緒に遊べたのはほんの数日のことだったけど、確かにあの時から俺はこの子を心の拠り所にしていたのかもしれない。
「敦賀蓮として俺にはなすべきことがある。それまでこの姿には戻るつもりはないから、しばらくはお別れだね」
ちなみに俺は妖精じゃないからね、と釘を刺しておくと、最上さんはあからさまにガッカリした顔をした。この姿はどうしてもメルヘン病な彼女の中では妖精であってほしかったらしい。
最上さんは何かを言いたそうに俺をじっと見つめている。
「どうしたの?」
「えっと…なんて呼んだらいいの?」
首をちょっとだけ傾げる仕草がとても可愛らしい。
なるほど。本当は久遠なんだけど、今はまだ名乗れないから。
「今まで通りでいいよ。敦賀さんでもコーンでも」
最上さんはコクンと小さく頷き、わずかに赤く染めた顔を俺に向けた。
「コーン…少しかかがんで?」
どうやらこの姿のときはコーンと呼ぶことにしたらしい。
俺は言われた通りに最上さんと目線がほぼ同じくらいになるように腰を折った。
最上さんは俺の顔を上目でチラリと見た後、おずおずと俺の首に手を回した。
そして…。
「笑って…コーン…」
小さく呪文のようにささやいた最上さんの顔が近づいてきたと思った時には、彼女の聖なる唇は俺のそれに重ねられていた。
「!」
柔らかいそれがあっという間に俺から離れていく。それが名残惜しくて俺は離れていく彼女の腰に片手を、更に空いている手を頭の後ろに回し引き寄せた。
そして…。
「ん…」
二度目のキスは俺から。
重ねるだけじゃ物足りなくて、角度を変えて舌で彼女の唇をなぞる。薄く開いたそこから俺の舌をねじこむと最上さんはビックリして体を震わせる。
そのまま彼女の歯列をなぞり上顎も俺の舌でなぞっていく。ヌルリとした粘膜の接触が気持ちいい。
「…んう…ん…」
俺が目をうっすらと開けてみると、彼女は思いきり苦しげに眉根を寄せていて、それがまた初々しくて止められなくなる。
口内を舌で探っていくと隅の方で彼女を発見し、俺はそれを優しく掬うようしてに絡めあげた。
最上さんの中は甘味貧乏なヤシの実ジュースの味のはずだったが、俺にはとんでもなく甘いお菓子のようだった。
「…ふ…ぅ…」
俺が唇を解放し最後にもう一度ついばむようにキスまたをすると、彼女は息も絶え絶えで俺を睨んできた。
それすら可愛くて、もう一度キスをしたくなる。だからまだ最上さんを離さない。
「何?」
「呪いを解くだけなんだなら一度でいいでしょ!」
真っ赤な顔をして俺の胸をポカポカと叩いているのは、俺が二度目にキスをしたことを怒っているかららしい。
役者の心の法則でノーカウントになんかさせてやらないよ。
「頑丈で強力な呪いだから俺からもしてみたんだけど」
俺が妖精じゃないことを白状したんだから、呪い云々も無効になるとは思わない所が最上さんらしくていい。
あのことにこだわる俺の気持ちひとつなのだけれど。
もちろん完全に吹っ切れたわけじゃない。それでも過去ばかり振り返らず前を見て歩けって、手を掴んで引っ張り上げられ、おまけに背中まで押されたようだ。しかもかなり強力に。
いつでもリックは押していてくれたような気がする。ちっとも前に進めない俺の背中を言葉や態度で。
だからこそ俺はあの時の惨劇を決して忘れない。
久遠として生きていく自分への戒めとして。俺を闇の中から引っ張り上げて助けてくれたその最上さんは、今俺の腕の中だ。
「キス…嫌だった?」
「い、嫌じゃないと思うけど…」
「思う…って…?」
「だってコーン…。私…あんなのしたことないんだもん……」
徐々に小さく細くなっていく声が彼女の羞恥を表している。それは俺にとって同時に喜びを与えてくれた。
最上さんの頭の中のアイツーーーあの幼なじみの影の薄さを実感したからだ。
あの彼女にとっての本当のファーストキスは、どうやら綺麗に上書きされているようだ。思わず俺の頬が緩みそうになる。
あぁ、このまま離したくなくなるくらい最上さんが可愛い。
「コーン…」
「何?」
「笑って?昔みたいに、あの笑顔を見せて欲しいの」
俺の呪いが本当に解けたのかを確かめたいらしい。
もう俺は本当に大丈夫だ。もう後ろを振り返って立ち止まらない。彼女が与えてくれる明るい光が、俺の奥底に沈み潜んでいた闇を切り裂き、進む道を照らしてくれるから。
「心配しなくても大丈夫。キョーコちゃんの愛のおかげで呪いなんか木っ端微塵に砕けたから」
「でも…」
うつむいて俺の胸に顔を埋めたままの彼女には今の俺の顔が見えていないらしい。嬉しくて幸せで心から笑っているんだけど。
俺は仕方なく彼女を拘束する腕を緩め、少しだけ体から離した。そして彼女の頬を両手で挟んで顔を上げさせた。
最上さんの少しだけ伏せられた瞳が上がり、真っ直ぐに見下ろす俺のそれと絡み合う。
「ありがとう、キョーコちゃん」
俺が精一杯の笑顔でお礼を言うと、最上さんはホッとしたように眉尻を下げた。心なしか瞳が潤んでいる。
そんな可愛い顔をされるとまたキスをしたくなる。
「よかった…。コーンの役にたてて」
「俺だって何度キョーコちゃんに助けられたか」
カインの中で暴走する俺を彼女は何度止めて救ってくれただろう。その声でその温もりでその体で。その度に俺は彼女の凄さ、ありがたさを思い知らされる。
俺は彼女の頬に当てている手でその滑らかな肌を撫でさする。そしてそのまま彼女の方へ自分の顔を寄せた。
チュッと音をたてて唇にキスをすると、最上さんは硬直したように動かなくなってしまった。さっきはもっとディープなものを交わしていたのに、この反応は反則だ。でも俺はこれ幸いと彼女の腰に手を回し引き寄せる。そしてそのまま唇をするすると下の方へ移動させ、心臓の少し上あたりをチュウッとと強く吸い上げた。
そこには綺麗な花が咲いたようにキスマークがついた。
俺は白い肌に咲いたその印に満足げに微笑む。
「コーン?」
「これは俺のものっていう証」
キスマークを指でちょんと指し示すと、最上さんはボボボッと顔から火が出そうな勢いで赤面した。
先日のカインの時はセツにかわされてしまったそれを、今日は抵抗すら出来なかった最上さんに対してつけてみた。丁度セツの服で隠れるかどうかの微妙な位置に。
「俺が暴走しないように。魔除けかな」
まだトラジックマーカーの撮影は残っている。だけどあの愛しい妹と一緒に過ごせる日はもう残り少ない。
限られた日々を有意義に過ごせるように俺は彼女の胸の上あたりにひとつだけキスマークをつけたんだ。
魔除けイコール村雨除けだ。
こうして最上さん自身を俺の胸の中で抱きしめていられるなんて、この撮影が始まった当初は予想もしなかった。
彼女が予定を一日繰り上げてグアムに来なかったら、こんな幸せなことにはなっていなかっただろう。
更にさかのぼって思えば、最上さんがアイツに捨てられなければ俺はこうして彼女に出会うこともなく本気の恋をして人を愛することもなかったかもしれない。反対に俺がクオン・ヒズリとして普通に人生を送っていたら…。
今こうしているのは本当に奇跡なんだと思う。だから俺はこの偶然の先に出会えた奇跡をこの手の中から零さないようにしっかりと抱きしめていたい。
「コーン…?」
俺がずっと最上さんを抱きしめたまま物思いにふけっているせいで、彼女は何かあったの?と心配したようだ。おずおずと俺の背中を優しい手のひらで上下にゆっくりと撫でてくれた。
その温かさがまだ目覚めたばかりの俺の真の心にゆっくりと浸透していく。
「幸せをかみしめているんだ」
「幸せ?」
「そう。こうしてキョーコちゃんを抱きしめてキスすることが出来る日が来るなんて思ってなかったから」
「……」
「もう少しこのまま…俺でいさせて」
次に会うときはカインになっているはずで、その傍らにいるのは最上さんではなく妹のセツカだから。
最上さんは何も言わずに俺にされるがままでいてくれた。
お互いの呼吸と胸の音だけが聞こえる。世界にたった二人だけしか存在しないような錯覚すら覚える。
その心地よい静寂を破ったのは、無機質に鳴り響く最上さんの携帯電話だった。
「電話?」
緊急の用かもしれないので俺は仕方なく最上さんを解放することにした。
彼女は慌てて小振りのカバンの中から電話を取り出し会話を始めた。
相手はミスジェリー・ウッズらしく、最上さんはひたすらペコペコと電話口で謝っている。
通話を終えると彼女は大きなため息をひとつついた。
「どうしたの?」
「ホテルにいてって言われたのに、ここにいるのがバレちゃって怒られちゃった」
シュンと気落ちしている最上さんに俺はこんな提案をしてみた。
「多分俺も怒られると思うから、どうせだから一緒に怒られようか?」
「え?コーンもミューズに怒られることしたの?」
「俺、携帯電話持ってきてないから、連絡とれなくて困っただろうなって」
最上さんがここに一日早く来てしまったことで、俺と接触しないように色々口裏を合わせておきたかっただろうに。結局こうして自分からバラしてしまったので、その苦労も水の泡なんだけど。
ものすごく怒ってるだろうな。胃が痛くなりそうだ。しかも俺たちが一緒にいると知ったら、どんな反応するんだろうか。でも、それはそれでちょっと楽しみかもしれない。
俺は最上さんの手を引いて、先ほどまで二人で時間を過ごしていたテーブルに戻った。そこにはまだ飲み干していないヤシの実ジュースがポツンと置き去りにされていた。
「ミスウッズが来るまで、ここにいようか」
最上さんを椅子に座らせ、その向かいに俺も座る。そして目の前にあるヤシの実ジュースに刺さっているストローを彼女に向けた。
「これでも飲んで、ね?」
最上さんがはにかむように小さく笑って勧められるままに飲み始めると、俺も身を乗り出してもう一本のストローで美味しくないジュースを吸い上げる。
俺が飲み始めると目の前にある最上さんの顔が心なしか赤みを帯びはじめ、照れている様子が分かる。
そのまま上目遣いで俺を見ないで欲しい。ただでさえ今は幸せでゆるゆるになっている理性が完全に溶けて消えそうになるから。
後々落とされるだろうミスウッズの雷は恐ろしいけど、今はただこの幸せを堪能していたい。
俺のかけがえのない大切な彼女と一緒にーーーー。


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と、まぁこんな感じです。
途中、自分でも何を書いてるか分からなくなってきたとこもあるんで、意味不明な箇所があるかもしれません…。
そこは大きくひろ~い心でもってスルーしてください…。
しかし相変わらず短編のくせに長い。スクロールするのが大変だと思ってブログのデザインを2段カラムにしているというのに。
ま、いっか。