共喰い
田中慎弥 著
集英社文庫
セックスの最中に殴らなくては興奮しない父親と、
そうにはなるまいと思う息子。
そのせいで離れて暮らす母親と、同居する父の女。
どの関係性も希薄なつながりで、
情念といったほとばしる感情とは無関係に思えた。
しかし、表に出さずうちに秘める情念もある。
そういった情念がそこはかとなく這う低音のように、
作品の底辺をただよっている。
高校生の性に対する盲目的で破壊的な力。
愛とか恋とかいった淡くふんわりしたものとはまったく関係なく、
主人公は性の処理にまっしぐらだ。
暴走しがちな性欲をどうコントロールしていくかは、
大人の男になるために必要な技術だと思う。
思春期に、歪んだ処理を覚えれば、人は曲がった世界へと進んで行く。
大半の人は、それをコントロールする術を覚えて行く。
果たして主人公の少年は、父親のようになってしまうのか。
川辺と呼ばれる小さな町は、
中上健次氏の作品にある路地裏のような世界観であろうか。
短編ということで、あえて父親の描写を薄くしているだと思うが、
もう少し絵を描けるようにして欲しかったと思うのは、
自分に想像力が欠けているからだろうか。
あとがきで瀬戸内寂聴氏も言っているが、
女性は良く描かれているように思う。
個人的に良いな、と思う作品には匂いがある。
この作品にも匂いはある。
ただ、その匂いが好きになるかどうかはある。
読む環境によってその匂いを吸い込めるかどうかという問題もあって、
今の自分にはこの作品の匂いを吸い込む準備はなかった。
ページを捲る時に、
少し嫌いな食べ物を飲み込む時の感覚が脳をよぎり続けた。
でも芥川賞をとったのだから、
文壇の先生方が認めた素晴らしい作品であることには違いないはずだ。
もっと勉強しなくてはいけない。
時間を置いて、いつかもう一度読んでみよう。と思う。

