hidezoのブログ -6ページ目

hidezoのブログ

個人的な読後の感想を勝手気ままに書いてます。

埃っぽくもあり、生臭くもあり。

hidezoのブログ-__.JPG

共喰い
田中慎弥 著
集英社文庫

セックスの最中に殴らなくては興奮しない父親と、
そうにはなるまいと思う息子。
そのせいで離れて暮らす母親と、同居する父の女。
どの関係性も希薄なつながりで、
情念といったほとばしる感情とは無関係に思えた。
しかし、表に出さずうちに秘める情念もある。
そういった情念がそこはかとなく這う低音のように、
作品の底辺をただよっている。

高校生の性に対する盲目的で破壊的な力。
愛とか恋とかいった淡くふんわりしたものとはまったく関係なく、
主人公は性の処理にまっしぐらだ。
暴走しがちな性欲をどうコントロールしていくかは、
大人の男になるために必要な技術だと思う。
思春期に、歪んだ処理を覚えれば、人は曲がった世界へと進んで行く。
大半の人は、それをコントロールする術を覚えて行く。
果たして主人公の少年は、父親のようになってしまうのか。

川辺と呼ばれる小さな町は、
中上健次氏の作品にある路地裏のような世界観であろうか。

短編ということで、あえて父親の描写を薄くしているだと思うが、
もう少し絵を描けるようにして欲しかったと思うのは、
自分に想像力が欠けているからだろうか。

あとがきで瀬戸内寂聴氏も言っているが、
女性は良く描かれているように思う。

個人的に良いな、と思う作品には匂いがある。
この作品にも匂いはある。
ただ、その匂いが好きになるかどうかはある。
読む環境によってその匂いを吸い込めるかどうかという問題もあって、
今の自分にはこの作品の匂いを吸い込む準備はなかった。
ページを捲る時に、
少し嫌いな食べ物を飲み込む時の感覚が脳をよぎり続けた。

でも芥川賞をとったのだから、
文壇の先生方が認めた素晴らしい作品であることには違いないはずだ。
もっと勉強しなくてはいけない。
時間を置いて、いつかもう一度読んでみよう。と思う。
錯綜する物語が迎えるクライマックスに震えた。


hidezoのブログ-__.JPG

歓喜の仔
天童荒太 著
幻冬社

天童荒太の作品は、正直暗い。
ランチを口にほうばりながら読むような作品ではない。
それは、文体から匂いが沸き立つからである。
饐えた匂い、砂塵の匂い、ざらついた空気の感触、罪の匂い、血の匂い、排泄物の匂い。
「永遠の子」「悼む人」などもそうであった。
そして、地を這うように進んで行く物語は、
人間の本質を捉えているように思える。
だからこそ、読み手は厭世観に苛まれる。
この物語の世界に未来はないのか、といったペシミズム。

高校生の誠、小学生の正二、幼稚園児の香の兄弟を中心に物語は進む。
それぞれがそれぞれに家族を思いながら、
まったく望んでいなかった人生のつまづきで、
やくざの言いなりとなって、パケと呼ばれる覚醒剤の包みを作る内職をする日々。
それは、親が作った借金のカタ。
長兄の誠は来る日も来る日も、掛け持ちで働きながら深夜に正二とパケを作る。
香は死んだ人が見えるというけったいな特性を持っている。
見なくても良いものが見えるということは、恐ろしく不便なのではないだろうか。
荒んで行く暮らしの中で、なにも見出せなかった3人が、
人との出会いの中で希望を見出し、別れの中で成長していく。
それは、幼くして知らなくても良い感情だったりもする。
が、人は逞しく聡明なのだと、物語る。

誠の現実逃避の副産物なのか、
パレスチナとイスラエルを思わせる紛争地域の同世代の物語が同時進行する。
やくざに逃げ場をなくされた自分と、
紛争という国家間のしがらみに逃げ場をなくした少年の物語が、
感情やおかれた状況をリンクさせながら進んで行く。
途中から、想像はかなり現実味を帯び、
夢と現の境が曖昧になる。
誠たちの物語もあらぬ展開を始める。
しかし、それらは最後の最後に、
なぜ『歓喜の仔』なのかに結実する。

素晴らしい作品だ。
褒める事しかしてないのは、今年本の運についているのかもしれない。
どうしてもっと早く読まなかったのだろうか。


hidezoのブログ-__.JPG

永遠のゼロ
百田尚樹 著
講談社文庫

ゼロとは零戦のことだ。

祖母の死をきかっけに、
祖父とは血のつながりがなかったことを知らされ、
そして、血のつながった祖父は特攻隊員だった事を知る。
今まで何も語られなかった血縁のある祖父を知ろうとする孫たちが、
当時を知る人たちをインタビューするところから物語は始まる。

戦時中の飛行機乗り。
徴兵ではなく、志願兵だったそうだ。
そこでは命は惜しむべきものではなかった。
「娘に会うまでは死なない。妻の元へ生きて帰ると約束したのだ」
「死にたくはない」
そう祖父は言っていたらしい。
祖父を臆病者と嫌うもの。
命の恩人と慕うもの。
それぞれにそれぞれのエピソードがある。
戦争という狂った出来事の中で
末端で命を賭してきた人たちの思いの丈には泣かされた。

特攻隊は喜んで命を差し出した。
我々はそう聞かされている。
すごいなぁ、自分にはまずそんなことできないや。
そう思っていた。
しかし、この本の中では、
けっしてそんなことではなかったのだと、
誰もが死への恐怖、死別するものへの執着は持っていたのだと語ってくれる。
妹を思い、母を思い、愛する者たちへの思い。
当時の特攻隊は、現代のテロリストと同じだ、と言い切るジャーナリストに、
元特攻要員の男が言った台詞が心に響いた。

「遺族に手紙に『死にたくない! 辛い! 悲しい!』とでも書くのか。それを読んだ両親がどれほど悲しむか分かるか。大事に育てた息子が、そんな苦しい思いをして死んでいったと知った時の悲しみはいかばかりか。死に臨んで、せめて両親には、澄み切った心で死んでいった息子の姿を見せたいという思いがわからんのか!」

そういった観点から特攻隊の遺言を見たことはなかった。
そうか、改めて読んでみたいと思った。

しかし、神風、桜花、人間魚雷など、
日本軍は狂ってたとしか言いようが無い。
二度とこんな過ちは犯してはならない。

素晴らしい一冊に出会えました。