先日の朝、出勤しようと車に乗り込んで、走り出した瞬間、
隣の車の前でぐったりと横に倒れている猫を見かけた。
その日は、相当冷え込んでいた。一瞬見ただけで、息をしていないように見えた。
その猫は、いつも裏庭で遊んでいた、野良猫『しちさん』のようだった。
私は、3回、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と唱えてそのまま出勤したのであった。
仕事が終わり、帰宅すると、もう車の前には猫の姿は無かった。
もう、誰かが処分業者に依頼したのだろうと思った。
横たわっていた場所は薄暗闇の中でも、染みがついているのがはっきりと分かった。
そして、いつもは出迎えに来る猫もおらず、窓を開けても、近寄ってくる猫もいなかった。
私は、完全に『しちさん』が永眠したと悟った。
次の日、『しちさん』の孫である『グレトラ』が餌を貰いに、朝の挨拶に来た。
しょうがなく、酒のつまみのアゴ焼きを二匹放り投げた。
そこへ、『しちさん』の子である『オセロ』が横取りに来た。
猫拳を使っての脅しが始まった。
そうこうしているうちに、『グレトラ』がおいしそうに食べながら、口を離した瞬間横取りしてしまった。
しかし、『グレトラ』も『オセロ』が口を離した瞬間、再度横取り、いや、取り戻した。
『オセロ』は諦めた様子だったが、持ち前の野生の嗅覚で、もう一匹のアゴ焼きを見つけ、おいしそうに頬ばった。
二匹の猫は一旦食事が終わると、そそくさと挨拶もせずに、消えて行った。
それからしばらくして、また二匹がやって来た。
黙って、二匹の動きを観察していたところ、
ギョエーーー
出た!『しちさん』の亡霊!
私は、目を疑った。
昨日永眠したはずの『しちさん』らしい猫が現実に、歩いていた。
そこに来たのは、まぎれもなく、七三分けの『しちさん』だった。
私は、嬉しくなって、カップの中に牛乳をたんまりと注いでやった。
三匹の猫は我さきにカップの周りに集まって牛乳を飲み始めた。
あんまり慌てて飲むもんだから、とうとうカップを倒して牛乳をこぼしてしまった。
三匹は、コンクリートにこぼれた牛乳を勿体なさそうに舐めていた。
昨日の猫は一体どこの猫だったのだろうか?
生きていたのか?
『しちさん』だったのか?
ただ寝ていただけなのか?
とにかく、また、今までの野良猫との付き合いが続きそうだ。


