倍音講座 その4 | 嵯峨秀夫のブログ

倍音講座 その4

 とある団員から、「ん」と発声するとき、舌をのどちんこにつけるべきか、離すべきかはてなマーク という質問がありました。完全に離すと、息は鼻に回らなくなり、100%口に来ますが、それだと響きが得られないので、少し鼻に入れた方がいいと答えました。ただし、ガチッとつけて全部鼻に入れてしまうと、「ん」から「ご」に開く際、のどちんこと舌が離れたとき、ポコッとギャップができてしまうので、弱めに。

 

 では、さっそく、「N」を発声するとき、息を鼻に入れた場合と、入れない場合を比較してみましょう。

 

① 鼻に息を入れた「N」
TONKUSEのブログ
 先日みた、「あ」の母音と比べ、2倍音、3倍音は少なめで、4倍音がちよっと多めです。また、遠くまで聞こえる声のポイントである、2KHzから4KHzの間のピークは、2Kに近い側にあり、以前「ホーミー」のまねをした時に出ていたところに近い、8倍音から11倍音あたりが鳴っています。 

 

② 鼻に息を入れず、口だけで発声した「N」
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 こちらは、基音からきれいに倍音が減っていく、いわゆる「癖のない音」です。ただし、遠くまで聞こえるポイントである、2KHzから4KHzはあまり鳴っていません。癖がないということは、イコール特徴がないということですね。

 逆に、あえて表現を控えめにしたいとか、柔らかめに聞かせたい時、特に響きすぎて目だってしまう人は、鼻に息を入れない、という手を使えるかも知れません。

 

 実は、もう一件やってみたいことがありました。それは、「下あごを開けるべきか、否か」です。

 自分は、下あごを開けない派です。言ってみれば、腹話術のように、なるべく口は開けないで、アイウエオすべての母音を出せ、というタイプです。確か、清水雅彦先生も、何かをくわえたまま、母音を発音する、という指導をされていました。

 逆に、大久保昭男先生は、下あごをガッツリと開けて「ア」の発声から作っていきます。以前書いたとおり、ヴォイトレを受けた後、自分はあごが痛くなったくらいです。

 

① 下あごを開けた「ア」
TONKUSEのブログ  基音から4倍音まではほぼ同じ、12倍音と13倍音がしっかり鳴って、遠くに届く声です。

 

② 下あごを開けない「ア」

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 この勝負は、かなり微妙です。4倍音は、いいのか、悪さをするのか?

 現場で聞くとわかりますが、①の方が、遠くまで通る感じはします。一方、ちょっと癖がある声でもあります。

 また、自分が②を採用している理由は、実は言葉は「ア」だけではないからです。アイウエオ全部の母音について、安定した響きがないと、特定の母音だけよく聞こえたり、あまり聞こえなかったりすることになり、あまり心地よくないと感じるからです。

 もうひとつ、若いうちはいいのかも知れませんが、あごを開けた発声は、ある程度の年齢に行くと、音程のずり下がりを生み出しやすいのです。

 

 母音と倍音については、また、この次に。