村井事件前日譚:坂本弁護士一家失踪事件② | 村井秀夫刺殺事件の真相を追って

村井秀夫刺殺事件の真相を追って

村井秀夫は何故殺されたのか?徐裕行とは何者なのか?
オウム真理教や在日闇社会の謎を追跡します。
当時のマスコミ・警察・司法の問題点も検証していきます。
(2018年7月6日、麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚らの死刑執行。特別企画実施中。)



1989年11月3日午前8時頃。岡崎が弁護士である在家信者に電話をして坂本弁護士の住所を聞き出した。

麻原「そうか、分かったか。ほかの手段を使わなくて済んだな。よしこれで決まりだ。変装していくしかないな」

村井「スーツを買うなら幾らくらいかかるかな」
麻原の側で村井が言った。

麻原「五,六十万もあれば足りるだろう」

すぐに村井は富士山総本部のサティアンビルにある自室へ中川を呼ぶと、塩化カリウムの粉末を渡した。

村井「坂本弁護士の自宅がわかったぞ。これからいくぞ」

中川は村井の部屋の横にあるトイレの洗面台へ移り、塩化カリウムを飽和水溶液にすると、それを小瓶に移した。水溶液を注射にこめ、車で連れ去るさいに麻酔で眠らせるためだった。

村井は中川の他に早川、岡崎、新実、端本を集め、二台の車に分乗して東京へ向かった。一台は白いビックホーン、もう一台はシルバーのブルーバードである。注射器を取り寄せるため中川を下ろし、杉並道場へ向かわせた。村井たちは選挙事務所に使っていた杉並区の一軒家へ向かうと、そこで車を停めた。早川は部下の林泰男を呼び、2台の車に無線機を取り付ける作業をはじめた。
村井は端本は本屋に入った。横浜線磯子区の地図など、地図類ばかり10冊ほど買った。端本は、村井が代金を気にかける風もなくこれだけ買い物をしたのにびっくりした。その後村井と端本は2人だけで蕎麦屋へ入った。



村井は端本に天丼と蕎麦を奢った。教団では、月に1万5千円ほどの業財と呼ばれる小遣いを渡し、それを出来るだけ節約させて残りを返済する制度があった。それに慣れていた端本とって、村井の行動は奇異に見えた。

一行は荻窪のアジトで合流した。アジトにはカツラなどの変装道具があった。カツラは、村井と新実だけがつけた。
新実はアフロヘアのカツラをかぶりながら「パンチ、パンチ」とはしゃぐ。


村井はメンバーを新宿へ連れて行くと「変装用の服を揃えるように」と、一人一人10万円を渡した。皆安売りの店でさっさとスーツを買って車に集合した。しかし、端本だけは戻ってこない。端本はルミネでジャケット、ズボン、シャツ、ベルト、靴の品選びで夢中だった。

早川は遅れて来た端本を叱りつけた。

早川「いつまでかかってるんだ!だいたい、なんでそんな高い物を買ってくるんだ、すぐに捨てるのにもったいない!」

村井「まあまあ」

村井「まあいいじゃないですか。若い者には若い者の考えがあるんですから」



メンバーが車の中で着替えている際、中川は下着の胸の辺りに、そっとプルシャをつけた。

横浜の坂本宅へは、村井が道案内した。住宅街の一角を一方通行の道でぐるりと一周したところで、村井はビックホーンでメンバーに無線連絡をした。

村井「ここが坂本弁護士の自宅だ」

近くの駐車場の開いている所に、車を停めた。そこから坂本弁護士の自宅があるアパートが見えた。

村井「あそこだ!」
村井は指をさした。

地図で最寄り駅を探した。JR洋光台が近い。しかし、通勤路になりそうな道は何本もあって、坂本弁護士が普段どこを歩いてくるのか分らなかった。

一行は二手に別れた。弁護士が見えたら村井か岡崎のもとに連絡することにした。
村井は金山神社で待機した。10時になって早川の車の無線が鳴った。

岡崎「玄関の扉が開いている」

早川「え?」

岡崎「今自宅を見にいったんだ」

早川「尊師に聞いてみるから、待ってくれ」

早川は駅前の公衆電話で麻原直通の電話番号を押した。

電話には麻原がすぐに出た。

早川「今まで待ちましたが、みつかりません。自宅の鍵が開いているので、入ろうと思えば入れますが」

麻原「もし帰っているのなら、家族ともども殺るしかないな」

早川「友達や親戚でも来ていたらうまくいかないのではないですか」

麻原「なら確認しろ。寝静まってからがいいだろう」

早川は村井や岡崎が待機してる所へ向かった。

2時ではまだ起きている人がいるかもしれないし、午前4時になれば新聞配達が動き出すかもしれない

「終電まで坂本が降りてこなかったら、3時頃に自宅へ侵入しよう」

謀議の後、早川は最終電車の時刻表を確認した。11月3日は文化の日。しかし早川が見ていたのは平日の時刻表だった。皆オウムで生活するうちに、曜日の感覚を失っていた。村井も同様だった。出家して間もない中川がふと気付き、新実にそっと言った。

中川「今日は祝日なので、坂本弁護士は出勤していないんじゃないですか。待っていても帰ってこないかもしれません」

新実はポンと手を叩いて中川を指差し「かしこい」と一言。これから人を殺すというのに新実のひょうきんはいつもの通りだった。

岡崎「様子を見てくる。子供の頃からこういうことに慣れているんだ」

偵察から戻って来た岡崎は皆に告げた。「おい、開いているぞ。3人いる」

村井は玄関が未施錠であることに懐疑的だった。村井は端本に指示した。

村井「カギが開いていなかった場合、窓を壊してでも入れ」



メンバーは忍び足で外階段を上がり、奥のドアの前についた。
廊下におもちゃの赤い車が置いてあり、ネームプレートには手書きで「坂本堤・都子」と書かれてあった。早川は玄関のドアを開けようとしたとき、手袋をはめ忘れたことに気がついた。
「誰か手を貸してくれ」岡崎がドアノブを回した。
最後に入って来た中川は、まだ外階段にいた。

「早く早く」岡崎が手招きしながら小声で言った。

中川がドアを閉じると同時に「カチッ」と音がした。

岡崎「シーッ、バカバカ」岡崎は声を潜めて中川をなじめた。

村井は早川に内部の偵察を命じた。
早川は入ってすぐのダイニングキッチンでしばらく目を暗さに慣らすと、右手の引き戸の方へ向かった。そして指紋をつけないよう人差し指を折り曲げ、引き戸を20㎝ほど引いた。

奥の方に薄ぼんやりと、布団が見えた。手前には女性が寝ている。奥に要るのは…坂本弁護士だ。
早川は玄関で待機していた村井たちにOKマークを出した。

一行は一斉に室内へなだれ込み、寝室内へ突入した。