第2次安倍改造内閣の発足後初めての臨時国会が29日に開会され、同日、安倍首相が所信表明演説を行いました。そこで、安倍首相の所信表明演説のうち首相が演説の「2本柱」と称する「地方創生」と「女性が輝く社会」について、安倍首相が所信表明演説で触れなかった課題について、それぞれ同演説を斬ってみたいと思います。

(地方創生)

安倍首相は、演説の中で、地方創生について「政府として、これまでとは次元の異なる大胆な政策を取りまとめ、実行していく」と言及しました。ところが、これまで成功事例を紹介したほかには、具体的に何が「次元の異なる大胆な政策」なのか、全く具体策を示していません。

他方、これまで石破茂・地方創生相が示した具体策には、①地方自治体への一括交付金と、②中央省庁の官僚や民間人を地方に派遣する制度があります。しかし、一括交付金は、民主党政権時代に導入し拡充していたものを、安倍政権になって何の説明もなく廃止してしまっていたものです。今更、どの面をして「復活」させようとしているのでしょうか。

また、中央官庁の官僚等を地方に派遣する制度は、これまでも、国から都道府県や政令指定都市等に対して明治時代以来行われてきた制度です。これまで「地方自治」や「地方分権」が進んでこなかった大きな原因が、国から地方への官僚派遣による国の地方支配にあったことを考えると、真の「地方創生」に逆行する制度です。

今回の制度は「人材の乏しい小規模な自治体を中心とした取組み」だそうですが、これでは、これまで小規模な自治体は都道府県を通じて国が間接的に管理・指導していたのが、これからは、国が小規模な自治体も直接的に管理・指導していくということになりかねません。「地方創生」ではなく「地方従属」を目指した政策ではないでしょうか。

(女性が輝く社会)

所信表明演説においては、「女性が輝く社会」は、何と、「五 成長戦略の実行」の中に含まれています。首相官邸ホームページでも、「女性が輝く日本をつくるための政策である『待機児童の解消』『職場復帰・再就職の支援』『女性役員・管理職の増加』」を、「持続的な日本の経済成長につなげるための『成長戦略』」と位置付けています。

演説の中では「女性の活躍は、社会の閉塞感(へいそくかん)を打ち破る大きな原動力となる」と表現しています。そこには、「女性が自らの人生を実りあるものとするための女性の活躍」という発想はありません。安倍首相が「経済成長のための女性活躍」や「国のための女性活躍」という発想を原点に持っていることを見逃してはいけません。

(触れられない重要事項:集団的自衛権)

安倍首相が所信表明演説で触れていない重要な事項の一つに、「集団的自衛権の行使に関する法制度の整備」があります。演説では、「切れ目のない安全保障法制の整備に向けた準備を進めていく」としか言及していません。あれだけ実現にこだわった集団的自衛権について、まるで議論をすることを逃げているようです。

安倍首相は、自らを「闘う政治家」と思っているようです。彼の言葉を借りれば、「『闘う政治家』とは、ここ一番、国家のため、国民のためとあれば、批判を恐れず行動する政治家のこと」だそうです。もしかすると、安倍首相は自らの思いとは違って実は「闘わない政治家」なのか、又は、集団的自衛権は実は「国家のため、国民のための」に必要ないものなのか、どちらかなのでしょう。

(触れられない重要事項:消費税率引上げ)

安倍首相が所信表明演説で触れていない重要な事項のもう一つが、「来年10月の消費税率10%への引上げ」です。安倍首相は、これまでも、そして今回の代表質問への答弁でも「消費税率引上げの是非は、年内に判断する」と言っているのですから、この問題についての議論は、本臨時国会でしか行えないのです。

にもかかわらず、安倍首相が消費税率の引上げについて一言も所信表明演説で触れていません。アベノミクスが実は宣伝されているように成功していないことが追及されること、又は、消費税率引上げによる増収分が「社会保障と税の一体改革」での3党合意に反して「国土強靭化」のために使われていることが追及されることを嫌がっていると、疑いたくなります。

(了)