法制審議会(法相の諮問機関)の特別部会は、9日、取り調べの録音・録画(可視化)の制度化について、裁判員裁判対象事件(注)と検察独自捜査事件についてのみの全過程可視化義務付けを了承しました。5月1日付の「今日の一言」で心配した通り、対象事件が極めて限定されたものとなったのです。

【注:裁判員裁判対象事件の犯罪の例】

外患誘致罪、殺人罪、強盗致死傷罪、傷害致死罪、現住建造物等放火罪、強姦致傷罪、危険運転致死罪、保護責任者遺棄致死罪、身の代金目的誘拐罪、覚せい剤取締法違反、など

(今回の決定では不十分)

今回の決定により「取調べの可視化」の対象となる事件は、全刑事裁判の2~3%に限られるとの批判もありますが、これまで、冤罪事件として社会で大きく注目されたものは、殺人事件などの裁判員裁判対象事件や政治家・高級官僚・財界人が関与した検察独自捜査事件ですから、一定の評価は下せるのかもしれません。

しかし、冤罪事件として注目された事件には、選挙違反容疑で過酷な取調べが警察で行われた鹿児島県の志布志事件があります。後から判明した取調べの実態は、人権無視のとても許し難いものでした。さらに、今回の法制審・特別部会の委員となった映画監督の周防正行氏が映画で取り上げた痴漢事件でも冤罪事件が頻繁に起こっています。

(私が法務大臣として目指したもの)

私が法務大臣に就任した約3年前の記者会見(201192日)では、「(取調べの可視化の在り方については、)費用の問題、効率性の問題等が相互に絡み合っていて総合的に考えていく必要があるが、」「理想とすべき,目指すべきところは,全過程であり,全事件である。」と答えています。

私がなぜ「理想は、全事件を対象」と答えたのかと言えば、選挙違反事件にせよ痴漢事件にせよ、違法・不当な取調べを抑止する必要があるのはすべての事件であるからです。このような考え方に立って、「原則は、全事件を取調べの可視化の対象とするが、個別の事件は、個々の事情を考慮して対象から外すこともできる」という仕組みも考えられます。

(驚くべき取調べの実態)

いずれ明らかにされると思いますが、私が再審請求に関わっている狭山事件の取調べは、取調べの可視化が如何に必要であるかを示す事件です。肝心の場面が録音から抜けていたりしますが、なぜか、多くの取調べの場面が録音されていました。その録音テープが検察側から弁護団側に渡されて、当局の供述調書と取調べ録音とが比較できる状況になったのです。

(最終的には国民の選択だ)

国民の多くの皆さんに、以上のような警察や検察での取調べの実態を知ってもらった上で、自らの人権が守られるとともに、社会の安定と秩序を守る犯罪捜査を確保するために、取調べの可視化がどのように実施されるべきかという問題に関心を持って戴きたいと思います。最終的には、「国民が何を望むのか」の選択の問題でもあるからです。

(了)